ヤマふぉと

山の自然や風景をゆったりと眺め、写真を撮るために山に登る。だから、登頂や縦走を目的とせず、好きな山域でテントを張ったり小屋に連泊して、カメラ片手にのんびりと過ごす。そんなスローな山登りを楽しんでます。

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厳冬期の南アルプスデビュー戦: 仙丈ケ岳その2

2012年12月31日~2013年1月2日 南アルプス仙丈ケ岳


午後7時過ぎには寝袋にもぐりこんだものの、しばらくは寒さ、疲れ、筋肉痛でなかなか寝付かれず、なんとなくうとうとしているような状態でした。


午前0時を回った頃、体中の筋肉が硬直するような不快感に襲われ、無性にストレッチがしたくなりました。そういえば、テント場についてからストレッチなどは何もしていません。寝袋から這い出して、首やら肩やらを回してみたり、足や背中の筋を伸ばしたりと、狭いテントの中でできる限りのストレッチを行うと、なんとか体の不快感は治まりました。


そうなると、今度は空腹感がじわじわと沸き起こってきます。そういえば、お餅を4つ持ってきていたはず。お正月でもあるしインスタント味噌汁に入れてお雑煮代わりに食べるか、ということで作った簡易お雑煮のうまかったこと。テントの中にいるとおよそお正月を想像させるものなどありませんが、わずか2個のお餅だけでなぜかお正月気分になれたのでした。


空腹感もみたされ、体が温まり、筋肉痛はあるものの体の不快感も低下し、これで早起きして仙丈ケ岳からご来光が見られれば最高の年になりそうだと思い、アラームを3時にセットして寝袋にもぐりこみました。


すっかり寝入ってしまったらしく、ふと気がつくとまだあたりは真っ暗です。まだ時計のアラームがなっていないので、3時前ということでしょうか。寝袋から手を出して枕もとのヘッドライトと腕時計を手探りで探し当て時刻を確認したところ、わが目を疑いました。「4:37」! 3時にセットしたアラームは、ひとりむなしく鳴り響いていたらしいのですが、一定時間鳴り響いて自動的に止まったわけです。冬用寝袋に頭からすっぽり包まって寝入ってしまった僕には、時計のアラーム音は意識を揺り起こすほど響いてこなかったのです。今から大急ぎで準備して5時に出発できたとしても、日の出時間までには森林限界の高さにすら届いていないことは明らかです。(落ち着いて考えれば、3時に起きて4時に出発したとしても日の出時間に登頂というのはしょせん無理なんですけどね。森林限界に出られればOKというレベルの話です。)


もはやこれまで。ご来光はすっぱりあきらめて、とりあえずしっかりと朝食をとることにしました。目覚めたときのテント内温度が-10度(腕時計の計測限界が-10度なので、実際はもっと低かったかもしれません)でしたから、外気はそれよりももっと低かったはずです。朝食は、当然ながらいつものラーメンです。今回はちょっと贅沢して焼き豚のブロックを持ってきたので、それをカットして贅沢チャーシューメンの出来上がりです。ハフハフいいながら熱いラーメンを流し込めば、眠っていた体と頭も目を覚まします。しかし、強烈な筋肉痛と体の重さはいかんともしがたい感じです。


食後にお茶を飲み、お湯を沸かしてポットにつめ、カメラなどの必要な機材と、万一のことを考えてダウンジャケットなどの防寒着もバックパックに詰め込みました。気温の低さを考慮し、手袋はジオラインのインナーをウールの薄手インナーに変更。その上にシェトランドウールグローブ、オーバーグローブという組み合わせにし、とりあえずミトンは様子見で着けずに行くことにしました。上半身は、ドライレイヤー、ウール厚手ベースレイヤー、フリース、ソフトシェル、そしてハードシェルまで着込みます。いちおう買う前にぱつんぱつんにならないか確認して購入しているので、これだけ着込んでもとくに窮屈ではありません。ソフトシェル、ハードシェルともにわきの下にベンチレーション用ビットジップがあるので、両方とも半分あけて熱気がこもらないようにしておきます。それでも暑ければハードシェルを脱げばいいだけです。下半身は、寝ていたときのインナー2枚履きの上に直接ハードシェルパンツをはきます。下半身はおそらくこれで大丈夫なはず。


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7:08 靴を履き、クランポンを装着し、アックスを身につけて、いざ出発です。結局なんだかんだで7時を回ってしまい、すっかり太陽が昇ってしまいました。1時間で出発するつもりが、2時間以上経っています。なんでこんなに時間がかかったのか、自分でもよくわかりません。そのせいか、少々あせっていたのかもしれません。このとき、非常に重要なものをテントに置き忘れていることにまったく気がついていませんでした。


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目指すは正面に見える小仙丈ケ岳の白い頂のそのまた奥にある仙丈ケ岳。標高3032.6m。テント場の標高が約2000mですから、1000mの高低差です。過去の自分の雪山での経験では、おおよそ1時間で標高差130mほどのペースです。そのまま当てはめると7.7時間もかかることになります。荷物が軽いということで、多少早くなったとしても、せいぜい7時間まで縮められるかどうかでしょうか。とすると、早くても午後2時に登頂できるかどうかというところです。たとえ登頂できたとしても、はたしてそんな時間から下山して日没までに帰ってこられるでしょうか。考えてもしょうがないので、とにかく出発です。


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北沢峠から仙丈ケ岳へのメインルートは、長衛荘の前から尾根伝いに上がっていく夏道ルート同じです。テント場から行く場合は、林道に出たところから尾根斜面を斜めにトラバースして二合目に合流する近道がついています。踏み跡もついていたので、当然近道から登ります。


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林道の先には、朝日を浴びて赤く染まった山の斜面が見えていて、まだ日陰の暗い森とのコントラストが印象的です。


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ルートはしっかりと踏まれており、踏み外さない限りは深くもぐるようなことはありません。ワカンも担いできていますが、昨日の登山道でも必要なかったので、今日はテントにおいてきました。踏み跡がしっかりしているため、案外さくさくと歩けます。あまり人の歩いていない岡山県北の山に登るより楽チンです。



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やがて、日が差し始めましたが、思ったより気温は上がりません。スタート直後は-8度ぐらいでしたが、いまだに-6度ぐらいです。



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8:03 二合目に着きました。標高はおよそ2170m。1時間で170mなので、なかなかいいペースです。



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しかし、本コースに合流してからが本番です。傾斜が急になり、息が上がります。



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8:49 三合目です。


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振り返ると木々の向こうに稜線が見えていました。あれは鋸岳でしょうか。



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右手方向にもどこかの山が見えていましたが、同定することができませんでした。アサヨ峰あたりのような感じです。


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9:13 四合目です。やや平坦で広くなっていたので、ここで大休止をとりました。GPSによれば、標高はおよそ2400m。1時間で200mにペースアップしていました。この分なら、お昼過ぎには登頂できるかもと、期待に胸が膨らみます。それでは、シャリバテにならないようにしっかりとエネルギー補給をしておこうと思い、バックパックの天蓋のポケットから行動食を取り出そうとして愕然としました。ないっ! 行動食を入れたいつものメッシュケースが入っていないのです!! 昼食もかねた行動食なので、あのケースがなければ何も食べるものがないということです。他も探してみましたが、バックパックの中のどこにも入っていません。落ち着いてよく考えると、準備していたときにやや多めに行動食を持って行こうと中身を追加するために取り出して、そのあといったん他の食料などの脇に置いてから、バックパックに戻し忘れていたのです!

「信じられん・・・」 己の馬鹿さ加減を呪いました。手元にあるのは、カメラケースのポケットに入っていたひとかけらのチョコレートとポットにつめた1リットルに満たないお湯のみ。お湯があるだけましですが、猛烈にカロリーを消費する冬山で、何も食べずにこれからさらに600mを登って帰ってくるなんて、はたしてそんなことが可能なのでしょうか? すでに朝食を食べてから4時間が経過しています。そろそろ空腹感が頭をもたげてきてもおかしくない頃です。撤退か、強行か、気持ちは揺れ動きます。まだ4合目に到達したに過ぎません。しかも、現在空腹でばてているわけでもありません。天候も落ち着いているし、条件としては悪くない。であれば、とにかく行けるところまで行くしかない。ただし、帰りのことを考えて、バテバテになる手前で引き返すこと。そうと決まれば行くしかありません。ひとかけらのチョコレートをお湯と共にゆっくりと味わって、さらに上を目指して出発したのです。



ここで一息。ポチッと押して休憩したら続きをどうぞ。





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しだいに雪が深くなり、周囲の木々にもたくさんの雪が積もっている状況になってきました。


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傾斜もさらにきつくなり、時にはつま先をけりこんでステップを切りながら登らないといけない場所も出てきます。


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途中苦しくて立ち止まって休憩しているときに振り返ると、甲斐駒ヶ岳が目の前に大きく見えました。


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突然傾斜がなくなり、平坦な森の中を進むルートになりました。


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9:59 大滝頭という分岐点に到着です。標高はおよそ2520mです。誰もいませんが、ストックやらスノーシューやらがデポしてありました。だいぶん空腹感がましてきて、体もやや重い感じになりつつあったので休憩をとろうかと思ったのですが、西側から吹き上がってくる風がかなり冷たくて、じっとしているとすぐに体が冷えてしまいそうです。とにかくもう少し先に進んで、風の当たらない場所を探すことにしました。


ところで、いつも左のショルダーベルトに取り付けているカメラケースに入れている記録用デジカメFT1ですが、あまりの寒さにバッテリーが瀕死の状態になってしまい、このあとはソフトシェルジャケットの胸ポケットに入れて暖めることにしました。その上、あまりの風の冷たさにハードシェルのジッパーを閉めてしまうことになったので、ここから先の写真は首からぶら下げた一眼レフEOS 6Dの写真になります。EOS 6Dは極寒の強風吹きすさぶ中、4時間も裸で首からぶら下げていたにもかかわらず、電池の残量メモリがひとつも減ることなく、満タン状態のまま持ち帰ったのです。条件が厳しくなればなるほど、一眼レフのタフさが際立ちます。


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大滝頭から上は森林限界に近づいてくるので、登るにつれて木々がまばらになり、一本一本の木々も小さくなっていきます。急傾斜は相変わらず続きますが、よく踏まれているおかげでそれほど登るのに困りません。しかし、何も食べていないことによる疲労感が、確実に足にくるようになってきました。


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振り返ると、甲斐駒と鋸岳が一体となった巨大な山塊がどっしりとした姿を見せていました。


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いつの間にか森はなくなり、まばらに細い低木が生えているだけの世界になりました。森林限界を突破したのです。さえぎるものがなくなった稜線は、風がますます強まります。時折突風がドカーンと右側からぶち当たってくるのですが、そのたびによろめいて倒れそうになるのは完全にシャリバテ状態になりつつある証拠です。


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10:49 雪の中からわずかに頭を出した六合目の道標を見つけました。まだ六合目なのかと思うと、気持ちも萎えます。


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急傾斜を登りつめると、やや緩やかになった稜線の道が続いているのが見えました。あのピークが小仙丈ケ岳なのでしょうか。いや、おそらく偽ピークだろうなと思いながら、強風に逆らいながら一歩ずつ踏みしめるように先を目指して進みます。


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強い風が作り出す自然の造形「風紋(シュカブラ)」です。風が舞い上げる雪つぶてが、サングラスの隙間から顔面を直撃すると猛烈に痛いので、ゴーグルに付け替えて、ハードシェルのジッパーを上まで引っ張り上げ、完全に顔が隠れるようにして進みます。バラクラバはすでに着用しているのですが、これで口を覆ってしまうと呼吸が苦しくて死にそうになるので、口を覆う布をあご下まで引き下げざるを得ません。ハードシェルのジッパーを、口が隠れない程度に下げることで、とりあえず呼吸を確保しつつ、顔を保護するという状態です。厳冬期強風下の山では、バラクラバよりもフェイスマスクのようなタイプのものを使ったほうがいいかもしれないという気がします。


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再び傾斜がきつくなり、空腹と寒さと疲れから一歩進んでは呼吸を整えるという、まるでヒマラヤ登山でもしているかのような状態です。コースに設置された旗ざおを目標にしながら、あの旗まで行ったらやめてもいいと自分に言い聞かせながら登り続けました。そして、何本目かの旗まできたとき、ようやく前方のピークに小さな道標らしきものが立っているのが見えました。あれがおそらく小仙丈ケ岳に違いない。しかし、そこまではまだ登らなければならないのです。もう、ここでやめようか。どうせ仙丈ケ岳本峰まではいけそうにないし、それならどこでやめても同じ。しばらく立ち止まってピークを眺めていましたが、ふと気がついたのです。たいして傾斜が急ではないことに。ピーク直下はそれなりの傾斜ですが、そこまでの傾斜はそうとう緩いのです。これなら、10分程度で着けそうです。


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後ろを振り返ると、歩いてきた真っ白い稜線がずっと下まで続いています。これだけ歩いてきたんだから、もう10分ぐらい登ってもいいだろう。どうせなら、せめて名前のあるピークを踏んで帰ろう。


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11:40 きっちり10分後、僕は小仙丈ケ岳のピークに立ったのです。ガスの向こうにわずかに仙丈ケ岳の姿がうっすらと見えましたが、あっという間に見えなくなりました。


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稜線をたどって戻ってくる登山者が見えました。なんとなくこのままいけそうな気になりますが、突風が吹くたびによろめいて踏み跡から落ちそうになるような状態です。いままでは踏み跡からはずれても深い雪に埋まるだけで済みましたが、今度はせまい稜線です。この先は、うっかりよろめいて足を踏みはずことは許されないのです。


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踏み跡から外れるということは、急斜面に足を踏み出すのと同じこと。もしも大きくバランスを崩して立て直すことができなかったら・・・ 小仙丈ケ岳直下の斜面は、カチカチに凍りついていました。この先そんな斜面で足を踏み外したらどうなるか、考えるまでもありません。

稜線を取り巻くガスは、ほとんど一瞬も晴れ間を見せてくれません。仮にうまく仙丈ケ岳へ登頂できたとしても、空腹と疲労と寒さで疲弊した状態で無事に戻ってこられるでしょうか。疲れは判断力を低下させ、体の動きを鈍らせます。ミスを起こす可能性は、むしろ下山時のほうが高くなるのは常識です。

また、天候が急変した場合、はたして体温を維持することができるのでしょうか。ツェルトはあります。ダウンの上下もあります。しかし、体温を維持するためにはカロリーのあるものを食べなければいけないのに、持っているのはわずか1リットルにも満たないお湯だけ。バーナーはテントに置いてきたので、お湯がなくなれば体を温めるものは何もないのです。この時期の稜線での天候急変は、かなり危険な状況に陥る可能性が高いといえます。事実、悪天候の北アルプスでは同じ日に複数の遭難が発生していました。

天候を読みきる知識も経験もなく、何かあっても生還できるだけの確証になるものがほとんどない現状で、これ以上先に進むことは勝率の低いただのギャンブルかもしれません。敗者となっても愚者となるなかれ。厳冬期の南アルプスデビュー戦は、残念ながら敗退です。南アルプスの女王様は、敗者にはその姿すら見せてくれませんでしたが、いつかまた挑戦したいと思います。


無理はしないということで仙丈ケ岳登頂を断念したわけですが、心のどこかに慎重すぎるのではないかという思いがあったのも事実です。しかし、下山時にちょっとした幻覚のようなもので混乱することになり、自分が思っていた以上に疲労していた可能性が高かったことが明らかになったのです。その意味では、仙丈ケ岳登頂を断念したことは正解だったと言えるのかもしれません。



つづく。



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| 2013年1月 仙丈ケ岳 | 18:53 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

Re: タイトルなし

山の写真屋(燕の子)さん

厳冬期のテント泊は初めての経験だったので、これほど時間と手間がかかるとは思っていませんでした。春山なんかとは比べ物になりませんね。

今回、食料を忘れてしまったのは痛かったです。燃料のない車と同じで、行動食なくして山行はできません。でも、今後はかならず食料のチェックを忘れないでしょうから、いい経験になったと思うことにします。

| ヤマふぉと | 2013/01/12 18:48 | URL |

冬は何もかも時間がかかります、早め早めの準備が肝心とはいってもいつもあたふたあれがないこれがないに終始します。
寒いと注意力が散漫になるので身支度する前に装備品は再チェックしたらザックは開けないようにしておりますが・・・有るんですよね!

| 山の写真屋(燕の子) | 2013/01/11 17:56 | URL |















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