ヤマふぉと

山の自然や風景をゆったりと眺め、写真を撮るために山に登る。だから、登頂や縦走を目的とせず、好きな山域でテントを張ったり小屋に連泊して、カメラ片手にのんびりと過ごす。そんなスローな山登りを楽しんでます。

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四国遠征第二弾 白銀の雪稜:石鎚山 その3

2012年2月12日 石鎚山(標高1982m) 日帰り山行 




天狗岳
13:05 石段を上りきり、山頂広場をまっすぐ突っ切って行くと、真正面に天狗岳の鋭利な三角形が姿を現した。黒々とした垂直に切り立つ絶壁が雪の白さに映えた。


弥山山頂
山頂広場には数名の登山者がいたが、それぞれゆったりとくつろいでおり、目の前にそびえる天狗岳に向かおうとする者はいなかった。踏み跡はあるものの、天狗岳の山頂にも、途中の稜線にも人影はなかった。
”なぜ誰も行かないのか”
何か理由でもあるのかと考えてみたが、思い当たるようなことは何もなかった。天候の不安はない。雪の状態も安定している。登山道も決して危険な箇所が多くあるような場所でもない。


天狗岳への降り口
僕は天狗岳へ向かう登山道の降り口に立って、その先のルートを眺めた。弥山からはちょっとした鎖場を下り、そこから先は断崖沿いの細い稜線となる。天狗岳の岩場に差し掛かったあたりで、少し森の中を進むところもあるが、ほぼがけっぷちの道である。とはいえ、三の鎖の迂回路にあった階段ほどのぎりぎり感はないので、高さに目がくらんだり足がすくむような場所はほとんどない。山頂直下の岩場に抜けたら、山頂は目と鼻の先にある。気持ちをせきたてるようにまぶしい陽光がルートを照らし出している。行かない理由はどこにもない。僕の右足は、ゆっくりと石が転がり落ちるように動き出していた。


天狗岳への稜線
弥山直下の短い鎖場を慎重に下り、気持ちのいい稜線の道を進んでいく。


山頂直下の岩場
やがて、天狗岳山頂のすぐ下にある岩場に差し掛かった。このルートで唯一慎重になった場所だ。左はもちろん目のくらむ断崖絶壁だ。右下は木がたくさん生えているとはいえ大きく切れ込むような急傾斜になっていて、転落するとやばいことになりそうだ。山頂へ行くにはこの岩の上を歩いていくしかない。クランポンがなければなんてことのない場所だが、鉄の爪で傾斜のきつい岩の上を歩くのは、それなりに緊張を強いられる。ほんの数mの岩をわたるためにクランポンをはずすというのは、いくら安心できるからといってもさすがに面倒でやる気にはならない。岩に腰掛けるような状態のまま、そろりそろりと横移動して、この岩場を抜けた。


天狗岳山頂
13:28 やっと天狗岳の山頂にたどり着いた。四国の最高峰であると同時に、白山以西の西日本最高峰でもある天狗岳。2年ぶりにその頂に戻ってきた。


山頂から瓶ヶ森
東には深い谷を隔てて瓶ヶ森の真っ白い頂が光っていた。


山頂から西方向
西には西ノ冠岳と二の森が見えた。快晴の澄んだ空気のためか、まるで手の届きそうな距離にあるみたいだった。


山頂から弥山
北西を見れば、先ほどまでいた弥山の頂に、石鎚神社と頂上山荘の建物が窮屈そうに肩を寄せ合っているのが見えた。いつの間にか山頂広場からは人影がなくなっていた。僕はひとり取り残されてしまったようで、なんとなく落ち着かない気持ちになった。時間は13時30分。下山開始予定時刻は14時なので、あまりゆっくりしている暇はない。


山頂から成就コース
弥山の右下には、今朝登ってきた成就コースがくっきりと見えていた。白い鞍部に広がる夜明峠の向こうには、対照的なまでに黒い森に囲まれた成就社も見えている。いまからあそこまで下って、さらにロープウェイ駅まで行くのかと思うと、げんなりした気持ちがじわりと湧き上がってきた。


天狗岳山頂で数枚の写真を撮り、わずか3分ほど滞在しただけで、せかされるように来た道を引き返した。なにもそれほどあわてることはないのだから、せめて腰をおろして、ゆっくりとチョコレートのひとつも食べればよかったのだが、なぜかそんなことをする気になれなかった。


弥山に戻るのに要した時間は、わずか10分程度だった。最後の鎖場を登りきると、天狗岳から見たときには誰もいなかった山頂に、単独行の男性登山者が一人いた。ちょうど登ってきたばかりのようで、休憩場所を探してうろうろしているような雰囲気だった。自分が最後の下山者でなかったという安心感で、すこしほっとした。


西の冠岳下のパーティー
山頂広場をそのまま横切って、石段の手前まで来たときに、正面に見える西ノ冠岳のピーク下の斜面に、芋虫が這っているような、細長いラインが見えた。何だろうと目を凝らしてみると、5人ほどのパーティーが、雪の斜面をトラバースしながら鞍部へと向かっているところだった。二の森からの夏道を縦走して来たのだろう。しかし、午後2時前の時間にあんなところをラッセルしているということは、山頂までまだ30分以上かかるだろう。それから休憩して下山していると、最終のロープウェイに間に合うのだろうか。それともどこかでテントを張るつもりなのか。それよりも、雪崩の心配はないのだろうか、などといらぬ心配をしながら彼らを少しの間見ていたが、いつまでも老婆心で見守っていても仕方がないので、彼らの無事を祈りつつ下山することにした。


下山時の階段
下山時は奈落のそこを見ながら雪に埋もれた階段を下るので、上りのときよりもスリル満点だ。


デポしていた荷物
14:01 無事にデポしておいた荷物のところまで戻ることができた。出発したときはまだ日が当たっていたのに、すっかり青い日陰の世界になっていた。


下山開始
ジャケットを脱いでバックパックに丸めて突っ込み、急いで準備を整えると、石鎚山の影に覆われ始めた道を下り始めた。


夜明峠の霧氷1
夜明峠では、やっぱり美しい霧氷が咲いた木に見とれてしまい、再び撮影に時間を費やすことになった。


夜明峠の霧氷2
自然の風景は、時間とともに光の向きと角度が変化するため、同じ場所でも見る時間が変わると美しくも地味にもなる。


夜明峠の霧氷3
また、行きと帰りで視線が異なるので、行きに気がつかずに帰りに気がつくということもある


夜明峠の霧氷4
ロープウェイの時間を気にしなくてよかったとしたら、おそらく1時間でも2時間でも撮影し続けていたことだろう。


下山時の前社ヶ森
14:56 途中何度も撮影に足を止めながら、前社ヶ森まで降りてきた。このあたりの霧氷も、いまだ解けずに残っていた。


下山時の八丁
15:23 急傾斜の道を下り、いい加減足が疲れてきたころ、八丁に着いた。ここから成就社まで登り返しになる。さすがに、そのまま登り斜面に向かう気にはならず、丸太のベンチを見つけて腰を下ろした。まだ飲みきっていないポットのお湯を飲み、登りで消費するカロリーを考えて甘いものをとった。こういうときはすぐにエネルギーになるチョコレートがいい。食べ終わるころに、途中で抜いてきた登山者が追いつき、彼も同様に休憩し始めた。
”シュボッ”
嫌な音が聞こえた。チラッと横を見ると、彼の口にはあのいまいましく不愉快な白く細長いものがくわえられていた。


僕はタバコの煙の臭いが、大嫌いなのだ。いや、単に嫌いというだけでなく、体調を壊してしまうという意味で、僕にとっての劇薬である。少しの煙でも継続的に吸ってしまうと、気分が悪くなり、頭痛が起こる。ひどくなると、息苦しさに襲われ数日間それが消えないこともある。多くの愛煙家は、そういう人間がいるということを考えたことすらないだろう。屋外だからとか、禁煙になっていないからという理由で喫煙を正当化して、どこでも平気で煙害を撒き散らす。喫煙は個人の自由だから、それをとやかく言うつもりはない。しかし、受動喫煙の問題が明確になっている昨今、屋外であっても駅周辺部などでは禁煙になりつつあるというのに、きれいでおいしい山の空気を、タバコの煙で汚染するとはなんたる愚行だろうか。しかも、あろうことかこの広い山域でわざわざ僕の隣にやってきて火をつけるのだから、もはや言語道断といわざるを得ない。少なくとも、そばに他人がいるのであれば、吸ってもいいかと尋ねるぐらいの配慮があってもいいのではないか。無神経な喫煙者のおかげで、せっかくの爽快な気持ちが台無しにされたと感じる自分のような登山者は、決して珍しい存在ではないはずだ。
”遠慮してもらえませんか”
僕は、喉まで出かかった言葉を飲み込みながら、息を止めたまま荷物を背負い、逃げるようにその場から立ち去った。この汚染された空気の中に、たとえ1秒でも居たくなかったのだ。


雪ダルマ
不愉快な気分でむしゃくしゃしながら成就社への道を登っていくと、かわいらしい雪だるまが出迎えてくれた。彼らは身長が1mはあろうかという大きな雪だるまで、登山道の脇で帰ってくる登山者を迎えてくれていた。その表情を見ているうちに、あの不快な臭いの記憶はいつしか消えて、とげとげしていた気持ちは丸くなった。


神門
16:02 神門が見えた。これで登り道は終わった。ここから先はきれいに整備された道を、ゆっくりと下っていけばいい。


ロープウェイ山上駅
16:21 ロープウェイ駅に到着した。雲ひとつない青空の下、夢のような霧氷の森を抜け、白い衣を身にまとった石鎚山を満喫した山旅はここで終わりだ。あとは鉄の箱に運ばれて、ただ移動するだけの空虚な数分間を経て、山麓へと戻るだけだ。


瓶ヶ森
駅舎の前からは、白く輝く瓶ヶ森が青空を切り取りながら悠然とたたずんでいるのが見えた。



おわり。


■山行データ
<往路所要時間> 4時間23分(撮影・休憩時間を含む)
ロープウェイ山頂成就駅8:51→成就社9:16→前社ヶ森10:35→夜明峠11:22→二の鎖下(土小屋ルート分岐)12:08→弥山山頂13:05→天狗岳山頂13:28

<復路所要時間> 2時間16分(撮影・休憩時間を含む)
天狗岳山頂13:37→二の鎖下14:01→前社ヶ森14:56→八丁15:23→成就社16:02→ロープウェイ山頂成就駅16:21

<登山道情報>
登山道はよく踏まれていて、大きく足がもぐることはなかった。スノーシューは必要なし。二の鎖下までならクランポンなしでもいけると思うが、山頂まで行くのであれば、6本爪以上のクランポンは必要。

三の鎖下の登山道脇にトイレがあり、使用できそうな雰囲気だったが、実際に使っていないので確認はしていない。それ以外道中にトイレはなかったので、冬季はくれぐれもロープウェイ山頂駅で用を済ませておくこと。





<あとがき>
小説風などとお馬鹿なことを思いついてしまったために、なんだか筆が進まず大変なことになってしまいました。起承転結のない山行記録を小説風に書いてみたところで、登って降りるだけで盛り上がる場面もないし、受けない宴会芸みたいなものでした。なお、基本的に山行記録なので創作した部分はありませんが、心理描写のところはそれなりに膨らませていたりします。





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| 2012年2月 石鎚山 | 16:35 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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