ヤマふぉと

山の自然や風景をゆったりと眺め、写真を撮るために山に登る。だから、登頂や縦走を目的とせず、好きな山域でテントを張ったり小屋に連泊して、カメラ片手にのんびりと過ごす。そんなスローな山登りを楽しんでます。

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寒風冷雨の過酷な山旅: 黒部五郎岳 vol 4

***お礼申し上げます***

本編とは無関係な話ですが、8月に入ってこのレポを書きはじめたらなぜだか突然ブログ村のランキングが上がりました。登山カテと山・森林写真カテの2つに登録している関係でポイントが2分割されますが、山・森林写真のカテではありがたいことに2位になりました。登山カテのほうでも80~100位あたりでうろうろしていたのが30位までランクアップです。応援のポチをしていただき誠にありがとうございます。自分の記憶の記録でもあるのでどうでもいいような話も織り交ぜながら書いているためどうしても文章が長くくどくなりがちですが、これからもひまつぶしがてら見ていただければ幸いです。

それから、拍手ボタンにコメントがつくことをすっかり忘れていて、コメントの確認をぜんぜんしていなかったのですが、今日なにげに見てみると、古くは2月の中蒜山の記事から数名の方にコメントをいただいておりました。お礼のコメントも書かないで、誠に申し訳ありませんでした。遅ればせながら本日、返信させていただきましたので、ご確認ください。

今後ともよろしくお願いします。






2011年7月26日~31日 岐阜・富山県境 黒部五郎岳

さて、いよいよこのレポも最終回です。

30日GPSログ1

30日GPSログ2

30日の朝は、ガスで視界は利かないものの風と雨は前日よりは多少ましになっていて、これなら出発できそうです。天気予報でも、午後から雨は止む予報になっていました。さいわい風邪が悪化することも無く、熱も出ていないようです。それでも起きるときにやや寒けとだるさを感じたので、ダウンジャケットを着て朝食の準備をしました。自炊場所に行くと、吐く息が白くなっていたので、この朝はそうとう冷え込んだみたいです。昨晩の寒けも、単に風邪気味だったということでもなかったのでしょう。

そうはいってもやっぱり食欲がわかず、1食分残っていたラーメンはパスです。熱々のポタージュスープとほとんどつぶれて団子状態になったミニクロワッサンで朝食を済ませると、ようやく体が温まり体調もよくなってきました。

5時ごろ出発の準備をしていると、後で「おはようございます」と声がしました。もおすけさんです。

僕 「おはようございます。5時30分ぐらいには出発します」

も 「どちら方面へ行く予定ですか」

僕 「予定では太郎平までですが、天気も回復しないみたいだし来た道を戻って北ノ俣避難小屋まで行こうかと。でも、夜中にちょっと寒気がしたりしたので、黒部五郎小屋から先、山小屋のないルートはちょっとリスキーな気もするし、迷ってます」

も 「風邪薬あるから差し上げますよ。ちょっと待っててください」

そういって戻っていったもおすけさんですが、しばらくして解熱剤と風邪薬を持ってきてくれました。しかも、フリーズドライの寒天雑炊と飴のプレゼント付です。本当ならこちらが差し入れのひとつも持ってくるべきところですが、こんなに親切にしていただいて大変恐縮です。その節はどうもありがとうございました。

薬が手に入ったおかげで、多少熱が出てもなんとか持ちこたえられそうだという安心感が強くなり、北ノ俣避難小屋まで一気に下ってしまうことにしました。もともとの計画では、太郎平のテント場に泊まって薬師岳を登頂して帰るという予定でしたが、この天気ではきっと行くだけ無駄です。ガスで何も見えない中、わざわざ登頂のためだけに遠回りするのもばかばかしいし、弱くなったとはいえ雨は相変わらず降っているので、沢の渡渉が何箇所もある雲ノ平・薬師沢経由のルートはあまり気が進みません。

ところで、来た道を戻るとなると再び黒部五郎岳を越えなければなりません。2日前に低体温症になりかけた場所です。今回は下りなので前回よりもリスクは小さいのですが、同じ過ちを繰り返すわけには行きません。雨具の下をどうするかです。とはいっても、すでにあの時着ていたものは汚れ物としてビニール袋の中ですから、選択肢はほとんどありません。小屋の部屋着として着ていたg・uで買った長袖アンダーシャツ、速乾性能をうたっていたワコールの男性用ブランドBROSのTシャツ、吸汗速乾性能のあるライフガードというマイナーブランドのTシャツ(しまむらで買った安物です)の3択です。g・uのアンダーシャツは黒部五郎岳の登りで着ていたアンダーシャツと同じような素材だし、長袖はまた袖口から水が滲みて冷えの原因になりそうなので却下です。とすると、残りの2種類のTシャツの重ね着しかありません。

では、どちらを下に着るかですが、BROSのTシャツのほうが薄手なので、こちらを下に着ることにしました。このTシャツは、いままでの夏山山行でブレスサーモライトウェイト長袖の上に重ね着していたものです。なので、なんとなく大丈夫だろうという意識があったようです。しかし、上に着るのと下に着るのとでは、必要な性能が異なるわけで、当然その性能に最適な生地である必要があるわけです。実は、いままでこのTシャツの素材をチェックしたことがありませんでした。いつも上に着ていたので、濡れて寒くなったという経験もないし、はなから合成繊維100%だろうと思っていたのです。しかし、実際は綿が60%ほど入っており、こんな雨の寒い日に直接肌につけるべきものではなかったのでした。そんなこととは思いもしないで、BROSのTシャツを素肌に着て、その上にライフガードのTシャツを重ね着しました。ソフトシェルをどうしようか迷いましたが、とりあえず今から着てしまうと汗でぐしょぬれになりかねないので途中で着ることにしました。

もおすけさんと
出発前にもおすけさんと記念写真を1枚。仕事に戻る彼女にお礼を言って、出かける準備を整えます。

5:47 降りしきる雨の中を出発です。いつも思うことですが、天気の悪い日に山小屋を出発するとき、何かしら不安と寂しさを感じます。その気持ちを押さえつけるように「さあ、行こう!」と自分を鼓舞するわけですが、これは単独行ゆえのものなのでしょうか、それとも誰でもそんなふうに感じるのでしょうか。

雨は強くも無く弱くも無くという感じです。三俣のテント場を流れている川の水量が増えていなかったので、もしかすると今日は登山道が激流になっていないかもと淡い期待を抱きつつ、三俣蓮華岳の巻き道へと向かいます。

来る時に激流と化していた沢筋は、さいわいちょろちょろと水が流れている程度でした。水が無いだけでなんと歩きやすかったことでしょう。しかし、途中のハイマツ林の中は登山道が深い水溜りになっていて、これを抜けるのに若干手間取りました。

黒部五郎小屋へと下る道は前回よりはましな状態でしたが、下るにつれて川となりあいかわらず石を伝って下りていかざるを得ません。

黒部五郎小屋の鞍部
28日よりもガスが薄いので、途中鞍部の様子を見ることができました。

黒部五郎小屋
7:54 黒部五郎小屋に到着です。雨はまだ降り続いています。小屋の前の水場で水を補給し、ベンチに座ってすこし休憩しようとしましたが、じっとしているとなんだかやたら寒いのです。雨具の下に山で着てはいけない代表的な素材である綿が60%も入ったTシャツを着て1時間強も歩いていたのだから当然汗でTシャツが濡れているわけで、標高2300m程度のここでさえ寒いのは当たり前です。しかし、そうとは知らないのでてっきり冷え込んで気温が低いのだろうと思っていたのでした。なんと愚かな・・・

小屋に入ってソフトシェルを着ればよかったのですが、これからお昼に向かって気温が上昇してくれば暑くなるだろうし、ここから五郎の肩まで2時間の登りだからシェルを着るほどのことはないだろうと考えて、ろくに休憩も取らないで出発したのでした。

たしかに、林間のコースでしかもカールの中なので風もほとんどなくて、その判断は間違いではありませんでした。けれども、2時間の登りの間にますますBROSのTシャツは汗をためこんで濡れていったのでした。

9:15 ダケカンバの林を抜けてカールの中へと入ってきました。カールを取り巻く巨大な岩壁が見え始めると、濁りのまったく無い清流を渡渉する地点に来ました。幸い、このとき雨は一時的に止んでいました。これはチャンスとばかり岩の上に荷物をおろして、この山行の目的にひとつであるカールの撮影をすることにしました。

五郎のカール1
周辺の視界をさえぎっていたガスも徐々に薄まって、ときおりカール上部の岩峰も見え隠れしています。

五郎のカール2
いつまた雨が降り出すのかわからないので、アングルを変えつつ急いでシャッターを切り、これまた大急ぎでもう一段上まで登りました。というのも、ガスが薄くなって黒部五郎岳のピークが姿を見せそうな雰囲気になってきたからです。

一段上まで登ってくると、予想通りガスが晴れてピークが姿を現しました。大きなテーブル状の岩の上に荷物を置き、さっきまで使っていたEOS40DのかわりにEOS5Dを取り出し、EF24mmF2.8レンズを装着しました。というのも、このときはいつもの標準ズーム28-75mmF2.8をEOS40Dに装着していたため、広角側の画角が不足していたからです。ところが、この選択が大失敗。EOS5Dの電源を入れようとしたら、なんと電源はONになっているではありませんか。えっ? と思いましたが、通常は電源がONになっていても15分ほどで自動的に電源がオフになる設定にしてあるので、シャッターボタンを軽く押せばすぐに復活するはずでした。ところが、カメラは反応しないのです。電源を入れなおしてみると、電池は空! なんと自動パワーオフ設定が解除になっていました。あわてて予備電池をひっぱりだして交換し、カメラを持って隣の岩の上まで駆け上ったときには、黒部五郎岳のピークは再びガスの中に隠れてしまいました。ガックリ・・・

こんなときはとりあえず現状すぐ使える機材で押さえのカットを撮っておいてからカメラやレンズを交換するのが鉄則なのに、画角にこだわりすぎてせっかくのシャッターチャンスを逃してしまいました。そもそも、標準ズームをEOS40Dにつけっぱなしにしておいたのが最初のミスです。メインカメラのEOS5Dに付け替えておけばなんの問題もなかったのです。それに、出発する前に機材のチェックをしておけば電池切れなんてこともなかったはずで、電池交換の時間が無ければ少なくともワンカットぐらいは撮れたはずです。天気が悪いので、写真なんて撮れないと決め付けていたのがすべての失敗の原因です。

五郎のカール3
撮った写真を見ても、手前の草地は構図的にも不必要なので、24mmである必要は無かったといえます。広大なカールの雰囲気は表現できませんが、EOS40Dでコバイケイソウの花と左上に見えていたピークを望遠でクローズアップしたほうが迫力の点ではよかったのではないかと感じます。

どうしてこの山行はこんなつまらないミスばかり重ねてしまうのでしょうか。

撮影がうまく行かなくてがっかりしていたら、雨が再び落ちてきました。しかも雨脚はいままでよりも強くなっています。まるでこちらの気持ちをみすかしているかのように、”せっかく気を利かせてシャッターチャンスを作ってやったのに、ドンくさい奴め” という嘲笑の声が雲の上から聞こえてくるようです。

おまけに、雨の中でなんども撮影していたパナソニックのコンデジTZ3も、とうとう雨でおかしくなってしまいました。レンズシャッターに水滴がついたらしくて、シャッターが途中で引っかかって完全に開かなくなってしまったのです。なので、最後は指でレンズシャッターを開いてやらなければなりません。その上突然電池が空っぽの表示が出たりするようにもなってしまいました。もともと防水カメラではないので、雨の中で撮影すればおかしくなっても当然です。アウトドアで使うには、やはり防水デジカメのほうが気兼ねなく使えていいと実感しました。一眼レフも防水性能の高い機種ならなおいいのですが、さすがにそこまでは手が回りません。せめてバックアップ用という意味でも防水コンデジを用意しておいたほうがいいかもしれません。

なんだか何もかもうまく行かなくて気持ちもトーンダウンしているところにもってきて、雨は降るし、体は冷えるし、そのうえこれからカールを取り囲む岩壁の急登を登らなければならないし、いろんなことが追い討ちをかけるようにやってきます。気持ちが盛り下がったまま重い荷物を背負い、急登に向けて歩き始めます。降り続く雨で、登山道は次第に川と化してきました。

雷岩
振り返ると、巨大な雷岩がカールの真ん中でぱっくりと割れていました。

カールの岩壁を登る道はけっこうつらい勾配です。立ち止まって息を整えていると体が冷えて寒くなるのですぐに歩き出すのですが、少し登るとまた休憩したくなります。そんなことを繰り返しながら、ようやく尾根までたどり着きました。尾根伝いに五郎の肩を目指していると、斜面下から吹き上げてくる風で体が冷やされます。震えがくるほどではないにしても、こんな状態が長く続けばちょっとやばそうな雰囲気です。五郎の肩を越えて黒部五郎岳の大斜面に入ると、来たときのような暴風雨にならないとも限りません。

10:30 撮影をして時間を費やしたわりにコースタイムどおり小屋から2時間半で五郎の肩に着きました。バックパックが2つデポされていたので、どうやら2名が頂上を目指しているようです。雨は相変わらずそこそこの強さで降り続いていますが、風はそれほどでもないので、傘を差してソフトシェルを着ることにしました。雨具を脱いでいると、太郎平方面から続々と登山者が上がってきました。見ると年配者ばかりのパーティーです。道標の前でどうするかを話し合っていましたが、ちょうどそこへ荷物をデポしていた2名が戻ってきたので、一人が頂上までの時間を尋ねていました。僕にはその回答が聞き取れなかったのですが、彼らは何事か仲間内で話し合っています。その間にこちらはソフトシェルと雨具を着て出発の準備を整えました。

彼らは話がまとまったらしく、荷物をかついで頂上に登りそのまま稜線ルートで行くようでした。2日前、稜線ルートを選んで失敗したばかりなので、さすがにそのまま黙っていることができず、彼らに声をかけました。

僕 「稜線ルートを行くんですか?」

彼 「はい」

僕 「稜線ルートはけっこうハードなルートなので、カールルートで行かれたほうが楽ですよ」

彼 「でも、頂上に登りたいので」

僕 「荷物はここにデポして登頂だけしてくればいいんじゃないですか」

彼 「でも、頂上まで1時間かかるとさっき聞いたので」

僕 「ええ? そんなにかかりませんよ。空身なら15分ぐらいで着きますよ。ゆっくり行っても20分ぐらいだと思いますよ」

彼 「え? そうなんですか? でも、1時間って・・・」

僕 「聞き間違いじゃないですか」

という会話を交わしたあと、彼らは荷物を置いて頂上へと向かいました。それにしても、もしも頂上から降りてきた2名が本当に頂上まで1時間かかるといったのであれば、どういう理由なのでしょうか。普通、分単位の話ですから「○○分」を「○○時間」と聞き間違えることはまずあり得ません。悪意を持ってだます理由はないでしょうから、往復で1時間という意味だったとしても、ちょっとかかりすぎです。頂上でゆっくりしていたのか、それとも道を間違えて時間をロスしたのかわかりませんが、往復にかかった時間をそのまま頂上までの時間として言ったとしたら、思い違いするにしてもちょっと首をかしげます。地図の標準コースタイムも時々いい加減ですが、他人の話よりも信用度は高いかもしれません。もっとも、山と高原地図には、肩から頂上までの時間は書かれていません。この地図、肝心なところで抜けていたりするのです。

そんなこんなで、小さな親切大きなお世話を押し売りして、五郎の肩をあとにしました。2日前、震える手でソフトシェルジャケットを着たハイマツ林を抜け、吹きさらしの大斜面まで出てみると、心配だった風はたいしたことはありません。これなら安心と、ジグザグの登山道をさくさく下って行きました。途中でGPSロガーの電池が切れているのに気がつきましたが、雨の中で電池交換して壊れると困るのでそのままにして進みます。

12:10 2578mのピークを過ぎて、中俣乗越への下りが始まる手前で雨があがったので、大休止をとることにしました。お昼時とあって、ちょうどお腹も空いていたところです。ベンチがわりになりそうな岩を見つけて荷物をおろし、行動食で簡単な昼食をとりました。

谷間から湧くガス
ガスが薄くなってきたので、目前の展望が開けてきました。谷間からガスが湧き上がってダイナミックな風景が展開しています。15分の休憩後、出発しました。

中俣乗越まで下ってくると、道標前の平坦な部分が大きな池のようになっていて、渡るのにひと苦労です。立ち止まったついでにGPSロガーの電池を交換しておきました。

赤木平
13:43 赤木岳への登りが始まる手前で、再び休憩をとります。気温が上がってソフトシェルを着て歩くのがつらくなってきたのです。空はあいかわらず雲に覆われていますが、ガスは晴れて視界が広がっています。赤木平周辺の広大な草地がくっきりとよく見えます。もう寒さの心配はしなくていいので安心です。ソフトシェルを脱ぐついでに、濡れて気持ちの悪いBROSのTシャツも脱ぎました。すっかり洗濯直後のような状態になっているBROSのTシャツを脱いで、その上に着ていたライフガードのTシャツだけになってみると、濡れていないこともあるのでしょうがこちらのほうがずっと快適です。はじめからこれを素肌に着ておけばよかったかも、と思ってみても後の祭りです。冬だけでなく、夏の登山でも着るものの性能と特長は理解しておく必要があることを改めて思い知ったのでした。

雷鳥の雛
往路で雷鳥の親子を見た場所で、再び親子に出会いました。おそらく同じ親子でしょう。雛鳥が元気に草地を歩き回っていました。

ハクサンイチゲのお花畑
14:02 赤木岳を越えるとハクサンイチゲのお花畑が広がっていました。北ノ俣岳を越えて太郎平方面に下ったあたりはハクサンイチゲの群落があると地図に記載されていますが、このあたりもけっこうな数のハクサンイチゲが咲いています。

北ノ俣岳山頂
14:41 北ノ俣岳山頂に着きました。往路では通過してしまいましたが、今回は登り返しですっかり疲れてしまったので大休止をとることにします。

チョコレート
1枚残っていたチョコレートを取り出して包み紙を開いてみると、ブロック状になっているはずのチョコレートがつるっとした板に変身していました。なんだか黒砂糖のお菓子みたいです。この山行でチョコレートが融けるほどの暑さはなかったので、どうやら7月に行った地元の低山に持っていったチョコレートだったようです。見た目はどうあれ味にかわりはないし、痛んでいるわけではないのでおいしくいただきました。

黒部五郎岳遠望
振り返ると、ガスの中から黒部五郎岳のピークが見え始めました。

黒部五郎岳の大斜面
ガスの切れ間に大斜面に続く登山道も見えます。こうしてみると、この道は稜線上を登っているのではなく、稜線の右側の斜面を登っているということがわかります。上のほうで左にトラバースしてハイマツ林を抜けて五郎の肩へと進んでいくところで、この稜線を乗越しているのです。あの日、台風のような暴風雨がハイマツ林に入ると突然静かになった理由は、稜線を越えたため斜面を吹き上がっていた暴風雨が頭上を飛び越えていくようになったからだったのでしょう。歩いているときはよくわかりませんでしたが、こうして離れて見ると納得です。

さあ、ここから先は下るだけです。神岡新道の分岐から急傾斜の登山道を下り、滑りやすく崩れやすい登山道に悩まされながら歩き続けます。

池塘
16:19 木道に入り、池塘のある場所まで戻ってきました。そういえば、池塘にはよく「ガキの田」という呼び名がついていますが、もちろんガキとは餓鬼のこと。この写真にあるように、貧相な稲のような水生植物が生えている様をそのように言ったとか。飢餓地獄の亡者が、実りの無い田んぼを耕し続ける罰を受けている様子を想像してのことだったのでしょうか。

16:30 避難小屋に着きました。近づいてみると中から大勢の話し声が聞こえます。土曜日なので先客がいるのは予想していましたが、なんと何処かの学校のクラブらしき団体が小屋いっぱいにシートを広げて食事の準備をしています。小屋の定員は確か10名のはずです。何人いるのか聞いてみると、9人だとか。詰めてもらえば1人分のスペースは取れるはずですが、高校生の団体の中によそものひとりだけ入るというのもどんなものかと思って小屋の外で考えていると、中から出てきたひとりが「どうしますか?」と聞いてきました。今から5時間かけて下山するのはさすがに嫌だし、小屋の前にテントを張るスペースも無いので、「悪いけど、ひとり分のスペースを空けてもらえるかな。」と頼みました。

すると、「じゃあちょっと先生に話してきます」といって小屋の下に入っていきました。そういえば、小屋の下には”新館”という看板がかかっています。最初は何かの冗談だと思っていましたが、なんと小屋の床下に宿泊場所があったのです。といっても、高床式になっている小屋の下をトタンの波板で囲って、中に構造用合板で簡易な床を作っただけの2畳ばかりの粗末な宿泊場所です。そこに引率の先生が2人入っていたのでした。

結局、先生2人が上の生徒たちと合流して”新館”を空けるのでそちらを使ってもらえないかということになり、団体の中にひとりで入り込むという状況よりも気が楽かと思ってそうさせてもらうことにしました。先生とちょっと話したところ、中高一貫校のクラブだそうで、中学生も混じっているとのことでした。

明け渡された”新館”の内部を見ると、入口は融けたチョコレートのようになった泥がたまっているし、窓はなく入口は構造用合板の板切れでふさぐだけという状態です。しかも上部に30cmほどの隙間ができるので、虫は入り放題です。こんなところに直接寝袋だけで寝るのはちょっと抵抗があります。夜中にクモやムカデが顔面を這いずり回ったら絶叫すること確実だし、ねずみがうろちょろされても困ります。まして熊なんかが来たら洒落になりません。

避難小屋でテント
幸い、なんとかシングルテントを張れるだけの広さと高さがあったので、ここにテントを張ることにしました。いままでは単なるボッカ訓練の荷物にしかなっていなかったテントですが、1度でも使う機会ができたのはよかったかもしれません。雨の心配は無いので、もちろんフライシートは無しです。このテントをフライシート無しで単独で使うのは、始めて使った北岳でのテント泊以来のことです。

最後の夜は食料をできるだけ消化してしまおうと、残っていたラーメンとアルファ米と味噌汁というチョー豪華な(どこが?)晩餐となりました。上の学生たちは遅くまで騒ぐかと思いきや、先生がいっしょだったためか、中高校生だから酒宴がそもそもできないためか、19時ごろには静かになりました。これが大学生だったり社会人や山岳会の団体だったら酒盛りで大騒ぎになっていたかもしれません。健全な中高生で助かりました。




31日GPSログ
翌朝、彼らは4時ごろ出発して行ったようです。こちらはわずか5時間の下山コースということもあって、5時ごろまでゆっくり寝ていました。床下の”新館”から這い出てみると、シンと静まり返った小屋があるだけでした。空は見事に晴れ上がり、朝焼けに染まった雲が北ノ俣岳上空に見えています。「しまった、また天気に裏切られた。」と思いましたが、いまさら薬師岳に登り返す気力はありません。薬師岳はまたおあずけになりました。

床下のテントに戻って朝食にしようかと思いましたが、せせこましい床下でテントをたたんだりするのも面倒なので、朝食前に誰もいなくなった小屋へ荷物を移動させるとことにしました。干していた雨具やぬれた衣服、荷物をまず移動させ、テントはポールだけ抜いて適当に丸めた状態で小屋に運び込みます。前夜、テント内で水をこぼしてしまったため、少し濡れていたテントを室内に干して、ゆっくりと朝食の準備です。

最後の朝食
最後の食事は、三俣山荘でもおすけさんにいただいた寒天雑炊です。昨晩の残りのご飯も入れて煮込むと、なかなかボリュームのある朝食になりました。もおすけさん、ありがとう! おいしくいただきました。食後のお茶を飲みながら、ガスバーナーを焚きっぱなしにして濡れたテントやグランドシートを乾かします。濡れたソックスなども干していましたが、こちらはさすがにどうにもならず、結局ビニール袋に入れてバックパックの中に収めました。

残っている乾いた衣服は、ウールの厚手ソックスとノースフェイスの秋冬用パンツ、ノンブランドの吸汗速乾Tシャツ、g・uの長袖アンダーシャツだけなので、着るべきものは自然と決まりました。ソックスは通常2枚履きしているので、ウールソックス1枚だと靴がブカブカしないかと気になりましたが、紐をしっかり結ぶことでなんとか足が遊ばない状態で履くことができました。秋冬用パンツは暑いかと思いましたが、ベンチレーションを全開にしておくと大丈夫みたいです。上半身はTシャツ1枚でも問題なしです。ドロドロの登山道を考慮して、泥除けにゲイターも着用し準備は万全!

8:00 名残惜しい北ノ俣避難小屋を出発です。

ガスの出た朝
朝の快晴はどこへやら、昨日と同じようなガスにまかれた天気になっていました。これなら薬師岳に登ってもガスガスで展望は期待できなかったことでしょう。

ぬかるみの道
寺地山に向けて森の中を下っていくと、初日と同じぬかるみの道が始まりました。

ニッコウキスゲのお花畑
寺地山の手前には、まだ綺麗なお花畑が残っていました。せっかくなので写真を撮って帰ることにしました。今回は2台の一眼レフボディと、4本の交換レンズを持ってきましたが、ほとんど使うことなく無駄な荷物と化していたので、せめて最後ぐらいは使ってみようというわけです。

ニッコウキスゲ1

ニッコウキスゲ2

ニッコウキスゲ3
といっても、しょせんニッコウキスゲの写真しか撮りようが無いので、たいして多くの写真は撮れませんでしたが、それでも無駄にはならなかったという気分だけでも味わえました。


寺地山山頂
10:00 寺地山山頂です。初日には笹に隠れてよく見えなかった白い看板がしっかりと見えています。笹が刈り払われたあとがあり、どうやら登山道の整備が行われたようです。この数日の悪天候の中で整備をしたのだとしたら、頭が下がる思いです。それとも、このあたりはそれほど天候が悪くなったのでしょうか。

飛越新道分岐
11:10 飛越新道分岐に到着です。

蝶々
休憩していると、ストックのストラップにきれいな蝶々が飛んできました。汗の塩分をなめていたのかもしれません。しっかりとしがみついているので、もう少し満足するまで待ってやろうと出発を先延ばししていましたが、いつまでたっても飛んでいかないので、彼らにはお引取り願って出発しました。

送電線鉄塔
12:43 送電線の鉄塔下まで戻ってきました。ここからは比較的なだらかな尾根筋を歩くだけです。

最後の登り返し
しかし、疲れのたまった足腰にはちょっとした登り返しがこたえます。二度、三度とわずかな登り返しをあえぐようにクリアし、いい加減うんざりしてきたところで再び長い登り返しが出てきました。「かんべんしてくれー」とつぶやきながらえっちらおっちら登り終えると、

飛越トンネルすぐそこ
待ちに待った道標が目に飛び込んできました。「すぐそこです」という文字がなんともうれしい瞬間でした。

駐車場が見えた
急勾配の下りの途中で、愛車の姿も見えました。無事に主人の帰りを待ってくれています。

ついに登山口
登山口が見えてくると、その向こうに愛車の姿も。たまたま見える場所に停めただけですが、なぜか尻尾を振って出迎えてくれている愛犬のような気がしてきました。

どろどろの足元
13:07 長い長い過酷な山旅が終わりました。足元はすっかりドロドロです。

シリオ712-GTXとゲイター
悪条件の山道を快適に歩かせてくれたシリオ712-GTXとトレックメイトのゲイターに感謝!

それにしても、今回はいいところのまったく無い山行でした。結局のところ思い込みと勘違いがすべての原因ですが、何度も来ている山域ということで慣れからくる油断があったのでしょう。どんな場合でも、「初心忘れるべからず」です。反省することばかりの6日間でしたが、無事戻ってこれただけでよかったと思うことにします。

突然のどしゃ降り
荷物をおろし、着替えを済ませ、ドロドロになった登山靴を側溝を流れていた流水で洗っていると、突然のどしゃ降りです。あわてて車に逃げ込んで、ホッと一息。最後もやっぱり雨に降られるわけね。なんて山行だろうと悪天候を呪いつつ、車をスタートさせました。


おしまい。



■山行データ
<所要時間> 10時間43分/5時間7分
三俣山荘5:47→三俣蓮華岳中腹巻道分岐06:52→黒部五郎小屋7:54→五郎の肩10:30→中俣乗越12:35→北ノ俣岳山頂14:41→北ノ俣避難小屋16:30

北ノ俣避難小屋8:00→寺地山10:00→神岡新道分岐点11:10→駐車場13:07


<標高差>727m(最低地点:北ノ俣避難小屋2053m、最高地点:黒部五郎の肩2780m)

<標高差>646m(最低地点:駐車場1413m、最高地点:草地道標前2059m)


<登山道情報>
黒部五郎岳カールルートの小屋からカールへ入るまでの部分は、雨のときは登山道が川になっている。勾配はたいしたことはないので、歩きやすい。カール内も迷うような場所はない。カールから稜線に上がると風が強くなることがあるので、悪天時は防寒着を上がりきる直前に用意しておくと便利。北ノ俣岳から草地の下りはスリップ注意。

神岡新道は泥道・スリップに要注意。






<おまけ>

割石温泉
とにかく、早くお風呂に入りたかったので、神岡からすぐのところにある割石温泉にやってきました。ここを訪れるのは始めてです。もともと地域の福祉施設のようで、入浴料も400円と低価格です。そのぶん、内湯だけで洗い場にはボディソープしか置いていませんが、浴室は広くて清潔でした。お湯もいい感じです。広々とした畳敷きの休憩室なんかもあって、ゆっくりするのによさそうです。






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| 2011年7月 黒部五郎岳 | 01:06 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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