気力体力を試される極寒のロングコース: 塩見岳 その4
2018年12月31日(月)~2019年1月2日(水)
長野県大鹿村 塩見岳(標高3047.3m) テント・避難小屋泊単独行
4、12月31日 登山口から三伏峠へ

この登山口の正式名称は、「南アルプス大鹿登山口 豊口ルート」というみたいです。登山道入口にペンキがはげかけた看板が嫌でも目に入るように設置されていました。所要時間は3時間とのことですが、軽快な夏山装備なら標高差800mもそんなものだと思います。冬山でも日帰り装備なら、まあ大きな違いはないでしょう。しかし、宿泊前提の冬山装備で3時間で登れる人はよほどの健脚です。自分のペースで考えると、早くても4時間、場合によっては4時間半ほどかかると思っておいたほうがよさそうです。

10:57 スタートからそこそこ傾斜のきつい道です。雪はほとんど残っていません。すでに4時間も歩いてきているので、それなりに疲れもあり、今から本格的な登山道が始まるという現実を受け入れるには、かなり精神力を消費します。

ところが、5分も登ると地面を雪が覆うようになってきました。しかも、登山道上には踏み固められて凍結した部分が多く、クランポンなしで登るにはやや厄介な状況になってきました。

30分ほど経った時、1/10の道標がありました。この道は三伏峠までを10分割して、分数でどれくらい来たのかを教えてくれる道標が立っているわけですが、その最初の道標がこれです。まだ10%しか歩いていないと考えるとかなり力が抜けるような気がしてきますが、道標があろうとなかろうと距離が変わるわけでなし、登るしかありません。

11:43 ツルツルガチガチに凍結した登山道を、時々迂回しながら上り詰めると、小さな鞍部に出ました。ここでようやく尾根に出たわけです。とりあえず、荷物を降ろして休憩です。雪が多くなるようなら4本爪のクランポンをつけようかと思いましたが、どうやらこの先は雪がないようなので、そのまま行くことにしました。また、日陰の道で少し風に吹かれると思いのほか寒かったので、ソフトシェルジャケットは着ていくことにしました。
ちなみに、装備リストのベースレイヤはノースフェイス ロングスリーブエアークルーとモンベル スーパーメリノウールEXP.ハイネックシャツの2種類を記載していましたが、実際に行動時に着ていたのはノースフェイス ロングスリーブエアークルーのほうです。モンベル スーパーメリノウールEXP.ハイネックシャツは、就寝時の保温用と、塩見岳アタック時に寒そうなら着用するつもりで持っていったものです。昨年の八ヶ岳赤岳登山では、モンベル スーパーメリノウールEXP.ハイネックシャツを着て登頂しました。マイナス15度の悪天候時でも寒くなかったのはモンベル スーパーメリノウールEXP.ハイネックシャツのおかげだと思うのですが、登山口から行者小屋までの区間では逆に暑かったので、今回は入山時は吸汗速乾性のノースフェイス ロングスリーブエアークルーを選んだというわけです。
ここで一息。ぽちっと押して休憩したら続きをどうぞ。


15分ほどの休憩をとった後、鞍部から尾根を登って行きます。初めのうちは、このように日当たりのいい斜面で雪は全くなかったのですが、少し登って樹林帯の中に入って行くと途端に雪が地面を覆って、完全な雪道になってしまいました。それでも、凍結はほとんどなかったのでそのまま進んで行ったものの、坂道の傾斜が緩み平坦で広い場所にでたので、念のため4本爪クランポンを装着しておきました。鞍部からちょうど10分ほどのぼったところで、標高2000mになる場所です。ここから先は、尾根を外れて豊口山南斜面を東にトラバースして行くルートになり、緩い傾斜の道が続きます。

12:21 2/10の道標を通過します。標高2040mあたりでした。

2/10を過ぎると、道はいったん折り返して、すぐにまた東に向いて斜面を横切って行きます。雪は10~15cmほどありましたが、4本爪クランポンでまったく問題なく歩くことができました。まだ雪の下の石や木の根が埋まりきっていない状況なので、爪の長い12本爪よりも4本爪のほうが楽に歩けます。荷物になるものの、長い林道歩きも含まれるようなときは、いわゆる軽アイゼンやチェーンスパイクのようなものを持参しておいた方がいいと思われます。

12:44 雪の付いていない、やや傾斜が急になった斜面を横切る場所に来ました。地形図で言えば、豊口山南東の標高2100mあたりの等高線がやや詰まった場所です。右手前方に小河内岳と思しき頂が見えます。この斜面に雪がない理由は、日当たりが良く融けやすいということなのでしょうが、そうであれば降雪があった場合雪崩れやすいということにもなります。木々が少ないのもそのせいなのでしょう。ドカ雪が降った直後やそれなりに積雪がある降雪時にここを通過するのは要注意かもしれません。

12:52 3/10を通過。

3/10道標から10分ほど進むと、ロープや手すりが設置されている急傾斜地に差し掛かるのですが、このあたりは道が狭い上にガチガチに凍りついた状態なっていて、凍結箇所を迂回することもできません。しかも木の根がある大きな段差を越さなければならなかったりで、このルートで数少ない難所のひとつだといえます。4本爪クランポンで強引に突破しましたが、滑り止めがなかったらかなり通過に苦労したことでしょう。

さらに凍結した急傾斜地のトラバースは続きます。

13:09 突然、鞍部に出てきました。

豊口山間のコルという場所のようで、豊口山の東にある東西に長い鞍部です。とりあえず、荷物を降ろして大休止をとりました。登山口からすでに2時間が経過していますが、距離的にはまだ1/3程度のところです。単純に計算すると、まだ4時間もかかることになってしまいますが、ここまでは割と勾配がきつい区間だし、標高差は350mほどあります。残りの標高差が450mほどなので、あと3時間ぐらいかなと見積もりました。ということは、三伏峠に着くのは16時ということになります。15時には着いておきたかったのですが、こればかりは仕方がありません。ま、日が暮れる前に着くならいいかという感じで、鷹揚に構えておくことにしました。

13:23 10分強の休憩ののち、三伏峠に向けて歩き出しました。最初は尾根を登って行きますが、途中から2248ピークの北側を迂回するルートになります。

2248ピークの北側を迂回している区間に、4/10がありました。1/10の時はなんだか途方もないほど長い道のりに感じましたが、気がつけば40%も消化しているということで、少し先が見えてきた気がしました。

丸太で組んだ桟橋もありましたが、雪が積もって凍結までしているため、かえってしっかりしているような感じです。きしみもしなければ揺れもしない、しっかりとした桟橋になっていました。
13:40 2248ピーク東側の鞍部まで来たところで、再び10分の休憩をとりました。荷物が重くて30分以上連続で登り続けることができません。休憩のとりすぎだと思いつつも、無理をして疲労を蓄積して動けなくなるぐらいなら、時間はかかっても休憩を多めに取って疲労の蓄積を減らした方がいいという作戦です。

休憩後、三伏峠につながる尾根の北斜面をトラバースする区間に入りました。歩き始めて10分ほどで、5/10が出てきました。標高2250mあたりです。4/10と5/10の間が妙に近いのが気になりますが、このての道標はかなりアバウトに設置されているみたいなので、あまり気にしない方がよさそうです。

崖地に設置された桟橋ですが、雪で覆われていて全体が見えないので、特に怖さもなく通過できました。逆に見えていたら、大丈夫かよと心配になるのかもしれません。

14:16 6/10がありました。4/10以降、なんだか速いペースで道標が出てきます。この分だと思っていたよりも早く着けるかもと、早くも楽観視しはjめますが、それほど都合よくいくかどうか。

7/10あたりに水場があるということだったので、重くなっても水場で水を汲んで行くつもりでいました。しかし、現れた水場は完全に凍結していて、痕跡が残っているだけでした。テント場に着いてから水作りを始めるとすぐに1時間ぐらいは経ってしまうので、できれば水は汲んで行きたかったのですが、出ていないものはどうしようもありません。

これまではおおむね緩やかな上りの道が続いていましたが、標高2350mあたりから急に勾配がきつくなってきました。急斜面をいきなり直登して、その先の尾根を回り込みながら急激に高度を上げていきます。

14:51 積雪の多い急勾配の登りの途中に、7/10がありました。残りはあと30%です。
7/10を通過した後、坂道の勾配が再び緩んだところで小休止をとりました。道標の数が少なくなってきて、気持ちに余裕が出てきたためか、休憩に良さそうな場所があるとつい足が止まってしまいます。

15:19 ついに8/10が出てきました。ながい道のりも徐々に終わりに近づいてきました。

15:27 塩川小屋方面への登山道との分岐点です。さすがに塩川小屋方面へのトレースはありませんでした。ここまでくれば、あとひと登りなのですが、地図で見るとそこそこ急な尾根の登りのようで、最後の休憩をとって行くことにしました。分岐のところにちょうど幕営跡らしきフラットな場所があり、うまい具合にベンチのように段差があったので、荷物を降ろさずそのまますわって5分ほど休憩しました。

休憩を終えて最後の登りに向かいます。直登ではなく斜面を巻くように斜めにトレースがついているので、思ったほどきつい登りではなかったのが助かりました。

とはいえ、出発してからすでに8時間が経っており、疲れもそろそろピークになろうかという頃です。この登りは正直堪えました。

15:57 分岐から30分弱登ったところで、突然展望が広がりました。北の方向に見えるのは、長い仙塩尾根が特徴的な仙丈ヶ岳です。その右奥には甲斐駒ヶ岳も見えています。

右手の方には、塩見岳が大きく見えています。ここまで来てようやく目指す頂を見ることができました。ちょうど南西壁が正面に見えており、難攻不落の城壁のようです。もう三伏峠までそれほど距離はないはずですが、それでもまだ小屋は見えません。なにより、9/10の道標がまだ現れていないのです。このすぐ先にあったとしても、そこからさらに1区間あるということですから、すくなくともまだ15分ぐらいはかかるということなのでしょう。いい加減にしてくれよと思いながら、終わる気配のない雪道を登って行きました。

突然、小屋まで約200歩という看板が現れました。2000歩ではなく200歩です。200歩ならもう着いたも同然です。しかし、9/10の道標は見ていません。ということは、見落としたのか、雪に埋もれていたのか。どちらにしても、これでようやく長い1日が終わるわけです。

16:09 おそらく誰もがしていると思いますが、看板から歩数を数えてみたら、三伏小屋玄関前までは約300歩でした。200歩だと小屋が見えるところあたりです。とにもかくにも、これでもう歩かなくて済むと思うと、本当に心の底から安堵することができました。登山口からは、結局5時間弱も要してしまいました。4時間半ぐらいかと思っていたわけですが、11月にあまり山に行けなかったのが影響したのかもしれません。
小屋の前から右斜め方向に進み、別棟の小屋を左手から回り込んで行くと冬季小屋の入り口がありました。入り口前にクランポンが1セット置いてあったので、少なくとも1人は宿泊者がいるようです。時間も時間なので、テントを張る手間を考えて避難小屋を利用しようかと思いましたが、わざわざテントを担いできて使わないのは無駄骨過ぎると思い直して、テント場に向かいました。

冬季小屋の裏側に広いテント場がありました。テントは2張のみです。うかうかしていると日が暮れてしまうので、急いでテント場に下りてテントの設営を行いました。ちょうど、2つのテントの間にそこそこ整地された場所があったので、整地は省略してそのままテントを設営しました。
さっさとテントを設営したら、すぐに荷物をテントの中に放り込んで、水作りのためのきれいな雪を取りに行きました。人が少ないのでどこでも取れそうでしたが、テント場の近くにも立小便の跡が何カ所かあったので、地面から雪をとるのはやめて、小屋の軒下に積もっている屋根から落ちた雪の山の表面からきれいなところをはぎ取って袋に一杯詰めてテントに戻りました。
ちなみに、三伏小屋には冬季トイレがあり、避難小屋利用者やテント場利用者に解放されています。そこらへんに立小便した連中はこのことを知らなかったのか、それとも知っていて行くのが面倒だから近くでしたのか、どちらにしてもトレースのすぐ脇や、冬季トイレのすぐ近くで立小便をするというのは、登山者として最低のモラルです。前にも書きましたが、こいつらは野良犬以下のクソ野郎です。排泄物の処理をちゃんとできないバカは山に来るんじゃない!
荷物の片づけはそこそこに、テント内で水作りをはじめました。もちろん、換気のために入口と換気口を開けてやっていましたが、少し開けているだけで凍えるような冷気がテント内に流れ込んできます。ガスを使っているというのに全然テント内が温まりません。行動時用のマグポット0.5リットルと予備の山専ボトル0.8リットルを最初に満タンにして、今晩の夕食用と明日の朝食用に約2リットルの水を作るのに1時間ほどかかり、水作りが終わったころには、ほぼ外は暗くなっていました。いい天気だし、夕陽に赤く染まる塩見岳の写真を撮りに行きたかったのですが、水を作らなければ食事もできないので、優先すべきは水作りです。残念ですが、こればかりは仕方がありません。
食事時も、テント内でガスを使ってもさっぱり暖かくならず、外よりはましという程度の寒さの中でアルファ米と味噌汁とフリーズドライのカレーで簡単な食事を終え、19時過ぎには寝袋にもぐりました。
相当冷え込みそうな感じだったので、残っている水を沸騰しない程度の熱さにしてプラティパスにいれて湯たんぽをつくり、先に寝袋に入れて温めていたのですが、おかげでほんのり暖かい寝袋にもぐることができました。
しかし、腕時計の温度計が計測不可能となるマイナス10度以下になって―表示になったころから、寝袋の中にもじわじわと冷気が浸みこんでくるようになりました。マットレスのほうはなんとか冷たさを遮断してくれていたのですが、寝袋を冷やす力に対抗できるほど内部から熱を供給できていなかったみたいです。それほど冷え込みが強烈だったということなのでしょう。ゴアテックスのカバーはしているものの、断熱性能はほぼないようなものなので、寒さ対策にはあまり効果がなさそうです。ゴアのカバーをすると暖かいという話も聞いたことがありますが、おそらくある程度の寒さの場合であって、極寒のテント泊ではないよりましかもという程度ではないかと思うわけです。
荷物になるのを承知で、プロモンテ あったかウォッシャブルライナーという保温用インナーシーツを持ってきていたので、当然これも使用しました。こちらの方はそれなりに効果があったようで、首元の紐を縛ってやると首や肩周りの冷たい感じが和らぎました。ただし、寝袋のショルダーウォーマーと顔回りの紐をしっかりと絞って寝袋に冷気が侵入しないようにしてやれば、インナーシーツのほうは絞らなくても大差ないようです。
寝袋が温まるようにダウンジャケットは脱いで寝ていたのですが、とうとう我慢しきれず途中でダウンジャケットを着て再び寝袋にもぐりました。ただし、寝袋に熱が供給されるようにダウンジャケットのフロントジッパーは開けておきました。
寒さ対策にダウンシューズの中にハクキンカイロ、胸元に飯田市のマツキヨで買った携帯カイロ「マグマ」を入れていたのですが、ハクキンカイロが思いのほか暖かくならず、なかなか足の冷たさが解消されません。マグマのほうは驚くほど暖かくなってくれて助かったのですが、それでも寝袋内を温められるほどの熱量ではないらしく、じわじわと冷たさが浸みてくる感じが消えません。寝袋のダウンが極力暖かい空気をため込むことができるように寝袋の内側にマグマを押し付けたりしながら寒さと闘っていましたが、さすがに疲れからうとうとと眠りに落ちて行きました。

つづく。
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長野県大鹿村 塩見岳(標高3047.3m) テント・避難小屋泊単独行
4、12月31日 登山口から三伏峠へ

この登山口の正式名称は、「南アルプス大鹿登山口 豊口ルート」というみたいです。登山道入口にペンキがはげかけた看板が嫌でも目に入るように設置されていました。所要時間は3時間とのことですが、軽快な夏山装備なら標高差800mもそんなものだと思います。冬山でも日帰り装備なら、まあ大きな違いはないでしょう。しかし、宿泊前提の冬山装備で3時間で登れる人はよほどの健脚です。自分のペースで考えると、早くても4時間、場合によっては4時間半ほどかかると思っておいたほうがよさそうです。

10:57 スタートからそこそこ傾斜のきつい道です。雪はほとんど残っていません。すでに4時間も歩いてきているので、それなりに疲れもあり、今から本格的な登山道が始まるという現実を受け入れるには、かなり精神力を消費します。

ところが、5分も登ると地面を雪が覆うようになってきました。しかも、登山道上には踏み固められて凍結した部分が多く、クランポンなしで登るにはやや厄介な状況になってきました。

30分ほど経った時、1/10の道標がありました。この道は三伏峠までを10分割して、分数でどれくらい来たのかを教えてくれる道標が立っているわけですが、その最初の道標がこれです。まだ10%しか歩いていないと考えるとかなり力が抜けるような気がしてきますが、道標があろうとなかろうと距離が変わるわけでなし、登るしかありません。

11:43 ツルツルガチガチに凍結した登山道を、時々迂回しながら上り詰めると、小さな鞍部に出ました。ここでようやく尾根に出たわけです。とりあえず、荷物を降ろして休憩です。雪が多くなるようなら4本爪のクランポンをつけようかと思いましたが、どうやらこの先は雪がないようなので、そのまま行くことにしました。また、日陰の道で少し風に吹かれると思いのほか寒かったので、ソフトシェルジャケットは着ていくことにしました。
ちなみに、装備リストのベースレイヤはノースフェイス ロングスリーブエアークルーとモンベル スーパーメリノウールEXP.ハイネックシャツの2種類を記載していましたが、実際に行動時に着ていたのはノースフェイス ロングスリーブエアークルーのほうです。モンベル スーパーメリノウールEXP.ハイネックシャツは、就寝時の保温用と、塩見岳アタック時に寒そうなら着用するつもりで持っていったものです。昨年の八ヶ岳赤岳登山では、モンベル スーパーメリノウールEXP.ハイネックシャツを着て登頂しました。マイナス15度の悪天候時でも寒くなかったのはモンベル スーパーメリノウールEXP.ハイネックシャツのおかげだと思うのですが、登山口から行者小屋までの区間では逆に暑かったので、今回は入山時は吸汗速乾性のノースフェイス ロングスリーブエアークルーを選んだというわけです。
ここで一息。ぽちっと押して休憩したら続きをどうぞ。


15分ほどの休憩をとった後、鞍部から尾根を登って行きます。初めのうちは、このように日当たりのいい斜面で雪は全くなかったのですが、少し登って樹林帯の中に入って行くと途端に雪が地面を覆って、完全な雪道になってしまいました。それでも、凍結はほとんどなかったのでそのまま進んで行ったものの、坂道の傾斜が緩み平坦で広い場所にでたので、念のため4本爪クランポンを装着しておきました。鞍部からちょうど10分ほどのぼったところで、標高2000mになる場所です。ここから先は、尾根を外れて豊口山南斜面を東にトラバースして行くルートになり、緩い傾斜の道が続きます。

12:21 2/10の道標を通過します。標高2040mあたりでした。

2/10を過ぎると、道はいったん折り返して、すぐにまた東に向いて斜面を横切って行きます。雪は10~15cmほどありましたが、4本爪クランポンでまったく問題なく歩くことができました。まだ雪の下の石や木の根が埋まりきっていない状況なので、爪の長い12本爪よりも4本爪のほうが楽に歩けます。荷物になるものの、長い林道歩きも含まれるようなときは、いわゆる軽アイゼンやチェーンスパイクのようなものを持参しておいた方がいいと思われます。

12:44 雪の付いていない、やや傾斜が急になった斜面を横切る場所に来ました。地形図で言えば、豊口山南東の標高2100mあたりの等高線がやや詰まった場所です。右手前方に小河内岳と思しき頂が見えます。この斜面に雪がない理由は、日当たりが良く融けやすいということなのでしょうが、そうであれば降雪があった場合雪崩れやすいということにもなります。木々が少ないのもそのせいなのでしょう。ドカ雪が降った直後やそれなりに積雪がある降雪時にここを通過するのは要注意かもしれません。

12:52 3/10を通過。

3/10道標から10分ほど進むと、ロープや手すりが設置されている急傾斜地に差し掛かるのですが、このあたりは道が狭い上にガチガチに凍りついた状態なっていて、凍結箇所を迂回することもできません。しかも木の根がある大きな段差を越さなければならなかったりで、このルートで数少ない難所のひとつだといえます。4本爪クランポンで強引に突破しましたが、滑り止めがなかったらかなり通過に苦労したことでしょう。

さらに凍結した急傾斜地のトラバースは続きます。

13:09 突然、鞍部に出てきました。

豊口山間のコルという場所のようで、豊口山の東にある東西に長い鞍部です。とりあえず、荷物を降ろして大休止をとりました。登山口からすでに2時間が経過していますが、距離的にはまだ1/3程度のところです。単純に計算すると、まだ4時間もかかることになってしまいますが、ここまでは割と勾配がきつい区間だし、標高差は350mほどあります。残りの標高差が450mほどなので、あと3時間ぐらいかなと見積もりました。ということは、三伏峠に着くのは16時ということになります。15時には着いておきたかったのですが、こればかりは仕方がありません。ま、日が暮れる前に着くならいいかという感じで、鷹揚に構えておくことにしました。

13:23 10分強の休憩ののち、三伏峠に向けて歩き出しました。最初は尾根を登って行きますが、途中から2248ピークの北側を迂回するルートになります。

2248ピークの北側を迂回している区間に、4/10がありました。1/10の時はなんだか途方もないほど長い道のりに感じましたが、気がつけば40%も消化しているということで、少し先が見えてきた気がしました。

丸太で組んだ桟橋もありましたが、雪が積もって凍結までしているため、かえってしっかりしているような感じです。きしみもしなければ揺れもしない、しっかりとした桟橋になっていました。
13:40 2248ピーク東側の鞍部まで来たところで、再び10分の休憩をとりました。荷物が重くて30分以上連続で登り続けることができません。休憩のとりすぎだと思いつつも、無理をして疲労を蓄積して動けなくなるぐらいなら、時間はかかっても休憩を多めに取って疲労の蓄積を減らした方がいいという作戦です。

休憩後、三伏峠につながる尾根の北斜面をトラバースする区間に入りました。歩き始めて10分ほどで、5/10が出てきました。標高2250mあたりです。4/10と5/10の間が妙に近いのが気になりますが、このての道標はかなりアバウトに設置されているみたいなので、あまり気にしない方がよさそうです。

崖地に設置された桟橋ですが、雪で覆われていて全体が見えないので、特に怖さもなく通過できました。逆に見えていたら、大丈夫かよと心配になるのかもしれません。

14:16 6/10がありました。4/10以降、なんだか速いペースで道標が出てきます。この分だと思っていたよりも早く着けるかもと、早くも楽観視しはjめますが、それほど都合よくいくかどうか。

7/10あたりに水場があるということだったので、重くなっても水場で水を汲んで行くつもりでいました。しかし、現れた水場は完全に凍結していて、痕跡が残っているだけでした。テント場に着いてから水作りを始めるとすぐに1時間ぐらいは経ってしまうので、できれば水は汲んで行きたかったのですが、出ていないものはどうしようもありません。

これまではおおむね緩やかな上りの道が続いていましたが、標高2350mあたりから急に勾配がきつくなってきました。急斜面をいきなり直登して、その先の尾根を回り込みながら急激に高度を上げていきます。

14:51 積雪の多い急勾配の登りの途中に、7/10がありました。残りはあと30%です。
7/10を通過した後、坂道の勾配が再び緩んだところで小休止をとりました。道標の数が少なくなってきて、気持ちに余裕が出てきたためか、休憩に良さそうな場所があるとつい足が止まってしまいます。

15:19 ついに8/10が出てきました。ながい道のりも徐々に終わりに近づいてきました。

15:27 塩川小屋方面への登山道との分岐点です。さすがに塩川小屋方面へのトレースはありませんでした。ここまでくれば、あとひと登りなのですが、地図で見るとそこそこ急な尾根の登りのようで、最後の休憩をとって行くことにしました。分岐のところにちょうど幕営跡らしきフラットな場所があり、うまい具合にベンチのように段差があったので、荷物を降ろさずそのまますわって5分ほど休憩しました。

休憩を終えて最後の登りに向かいます。直登ではなく斜面を巻くように斜めにトレースがついているので、思ったほどきつい登りではなかったのが助かりました。

とはいえ、出発してからすでに8時間が経っており、疲れもそろそろピークになろうかという頃です。この登りは正直堪えました。

15:57 分岐から30分弱登ったところで、突然展望が広がりました。北の方向に見えるのは、長い仙塩尾根が特徴的な仙丈ヶ岳です。その右奥には甲斐駒ヶ岳も見えています。

右手の方には、塩見岳が大きく見えています。ここまで来てようやく目指す頂を見ることができました。ちょうど南西壁が正面に見えており、難攻不落の城壁のようです。もう三伏峠までそれほど距離はないはずですが、それでもまだ小屋は見えません。なにより、9/10の道標がまだ現れていないのです。このすぐ先にあったとしても、そこからさらに1区間あるということですから、すくなくともまだ15分ぐらいはかかるということなのでしょう。いい加減にしてくれよと思いながら、終わる気配のない雪道を登って行きました。

突然、小屋まで約200歩という看板が現れました。2000歩ではなく200歩です。200歩ならもう着いたも同然です。しかし、9/10の道標は見ていません。ということは、見落としたのか、雪に埋もれていたのか。どちらにしても、これでようやく長い1日が終わるわけです。

16:09 おそらく誰もがしていると思いますが、看板から歩数を数えてみたら、三伏小屋玄関前までは約300歩でした。200歩だと小屋が見えるところあたりです。とにもかくにも、これでもう歩かなくて済むと思うと、本当に心の底から安堵することができました。登山口からは、結局5時間弱も要してしまいました。4時間半ぐらいかと思っていたわけですが、11月にあまり山に行けなかったのが影響したのかもしれません。
小屋の前から右斜め方向に進み、別棟の小屋を左手から回り込んで行くと冬季小屋の入り口がありました。入り口前にクランポンが1セット置いてあったので、少なくとも1人は宿泊者がいるようです。時間も時間なので、テントを張る手間を考えて避難小屋を利用しようかと思いましたが、わざわざテントを担いできて使わないのは無駄骨過ぎると思い直して、テント場に向かいました。

冬季小屋の裏側に広いテント場がありました。テントは2張のみです。うかうかしていると日が暮れてしまうので、急いでテント場に下りてテントの設営を行いました。ちょうど、2つのテントの間にそこそこ整地された場所があったので、整地は省略してそのままテントを設営しました。
さっさとテントを設営したら、すぐに荷物をテントの中に放り込んで、水作りのためのきれいな雪を取りに行きました。人が少ないのでどこでも取れそうでしたが、テント場の近くにも立小便の跡が何カ所かあったので、地面から雪をとるのはやめて、小屋の軒下に積もっている屋根から落ちた雪の山の表面からきれいなところをはぎ取って袋に一杯詰めてテントに戻りました。
ちなみに、三伏小屋には冬季トイレがあり、避難小屋利用者やテント場利用者に解放されています。そこらへんに立小便した連中はこのことを知らなかったのか、それとも知っていて行くのが面倒だから近くでしたのか、どちらにしてもトレースのすぐ脇や、冬季トイレのすぐ近くで立小便をするというのは、登山者として最低のモラルです。前にも書きましたが、こいつらは野良犬以下のクソ野郎です。排泄物の処理をちゃんとできないバカは山に来るんじゃない!
荷物の片づけはそこそこに、テント内で水作りをはじめました。もちろん、換気のために入口と換気口を開けてやっていましたが、少し開けているだけで凍えるような冷気がテント内に流れ込んできます。ガスを使っているというのに全然テント内が温まりません。行動時用のマグポット0.5リットルと予備の山専ボトル0.8リットルを最初に満タンにして、今晩の夕食用と明日の朝食用に約2リットルの水を作るのに1時間ほどかかり、水作りが終わったころには、ほぼ外は暗くなっていました。いい天気だし、夕陽に赤く染まる塩見岳の写真を撮りに行きたかったのですが、水を作らなければ食事もできないので、優先すべきは水作りです。残念ですが、こればかりは仕方がありません。
食事時も、テント内でガスを使ってもさっぱり暖かくならず、外よりはましという程度の寒さの中でアルファ米と味噌汁とフリーズドライのカレーで簡単な食事を終え、19時過ぎには寝袋にもぐりました。
相当冷え込みそうな感じだったので、残っている水を沸騰しない程度の熱さにしてプラティパスにいれて湯たんぽをつくり、先に寝袋に入れて温めていたのですが、おかげでほんのり暖かい寝袋にもぐることができました。
しかし、腕時計の温度計が計測不可能となるマイナス10度以下になって―表示になったころから、寝袋の中にもじわじわと冷気が浸みこんでくるようになりました。マットレスのほうはなんとか冷たさを遮断してくれていたのですが、寝袋を冷やす力に対抗できるほど内部から熱を供給できていなかったみたいです。それほど冷え込みが強烈だったということなのでしょう。ゴアテックスのカバーはしているものの、断熱性能はほぼないようなものなので、寒さ対策にはあまり効果がなさそうです。ゴアのカバーをすると暖かいという話も聞いたことがありますが、おそらくある程度の寒さの場合であって、極寒のテント泊ではないよりましかもという程度ではないかと思うわけです。
荷物になるのを承知で、プロモンテ あったかウォッシャブルライナーという保温用インナーシーツを持ってきていたので、当然これも使用しました。こちらの方はそれなりに効果があったようで、首元の紐を縛ってやると首や肩周りの冷たい感じが和らぎました。ただし、寝袋のショルダーウォーマーと顔回りの紐をしっかりと絞って寝袋に冷気が侵入しないようにしてやれば、インナーシーツのほうは絞らなくても大差ないようです。
寝袋が温まるようにダウンジャケットは脱いで寝ていたのですが、とうとう我慢しきれず途中でダウンジャケットを着て再び寝袋にもぐりました。ただし、寝袋に熱が供給されるようにダウンジャケットのフロントジッパーは開けておきました。
寒さ対策にダウンシューズの中にハクキンカイロ、胸元に飯田市のマツキヨで買った携帯カイロ「マグマ」を入れていたのですが、ハクキンカイロが思いのほか暖かくならず、なかなか足の冷たさが解消されません。マグマのほうは驚くほど暖かくなってくれて助かったのですが、それでも寝袋内を温められるほどの熱量ではないらしく、じわじわと冷たさが浸みてくる感じが消えません。寝袋のダウンが極力暖かい空気をため込むことができるように寝袋の内側にマグマを押し付けたりしながら寒さと闘っていましたが、さすがに疲れからうとうとと眠りに落ちて行きました。

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| 2018年12月 塩見岳 | 00:38 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑