ヤマふぉと

山の自然や風景をゆったりと眺め、写真を撮るために山に登る。だから、登頂や縦走を目的とせず、好きな山域でテントを張ったり小屋に連泊して、カメラ片手にのんびりと過ごす。そんなスローな山登りを楽しんでます。

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四国遠征第二弾 白銀の雪稜:石鎚山 その3

2012年2月12日 石鎚山(標高1982m) 日帰り山行 




天狗岳
13:05 石段を上りきり、山頂広場をまっすぐ突っ切って行くと、真正面に天狗岳の鋭利な三角形が姿を現した。黒々とした垂直に切り立つ絶壁が雪の白さに映えた。


弥山山頂
山頂広場には数名の登山者がいたが、それぞれゆったりとくつろいでおり、目の前にそびえる天狗岳に向かおうとする者はいなかった。踏み跡はあるものの、天狗岳の山頂にも、途中の稜線にも人影はなかった。
”なぜ誰も行かないのか”
何か理由でもあるのかと考えてみたが、思い当たるようなことは何もなかった。天候の不安はない。雪の状態も安定している。登山道も決して危険な箇所が多くあるような場所でもない。


天狗岳への降り口
僕は天狗岳へ向かう登山道の降り口に立って、その先のルートを眺めた。弥山からはちょっとした鎖場を下り、そこから先は断崖沿いの細い稜線となる。天狗岳の岩場に差し掛かったあたりで、少し森の中を進むところもあるが、ほぼがけっぷちの道である。とはいえ、三の鎖の迂回路にあった階段ほどのぎりぎり感はないので、高さに目がくらんだり足がすくむような場所はほとんどない。山頂直下の岩場に抜けたら、山頂は目と鼻の先にある。気持ちをせきたてるようにまぶしい陽光がルートを照らし出している。行かない理由はどこにもない。僕の右足は、ゆっくりと石が転がり落ちるように動き出していた。


天狗岳への稜線
弥山直下の短い鎖場を慎重に下り、気持ちのいい稜線の道を進んでいく。


山頂直下の岩場
やがて、天狗岳山頂のすぐ下にある岩場に差し掛かった。このルートで唯一慎重になった場所だ。左はもちろん目のくらむ断崖絶壁だ。右下は木がたくさん生えているとはいえ大きく切れ込むような急傾斜になっていて、転落するとやばいことになりそうだ。山頂へ行くにはこの岩の上を歩いていくしかない。クランポンがなければなんてことのない場所だが、鉄の爪で傾斜のきつい岩の上を歩くのは、それなりに緊張を強いられる。ほんの数mの岩をわたるためにクランポンをはずすというのは、いくら安心できるからといってもさすがに面倒でやる気にはならない。岩に腰掛けるような状態のまま、そろりそろりと横移動して、この岩場を抜けた。


天狗岳山頂
13:28 やっと天狗岳の山頂にたどり着いた。四国の最高峰であると同時に、白山以西の西日本最高峰でもある天狗岳。2年ぶりにその頂に戻ってきた。


山頂から瓶ヶ森
東には深い谷を隔てて瓶ヶ森の真っ白い頂が光っていた。


山頂から西方向
西には西ノ冠岳と二の森が見えた。快晴の澄んだ空気のためか、まるで手の届きそうな距離にあるみたいだった。


山頂から弥山
北西を見れば、先ほどまでいた弥山の頂に、石鎚神社と頂上山荘の建物が窮屈そうに肩を寄せ合っているのが見えた。いつの間にか山頂広場からは人影がなくなっていた。僕はひとり取り残されてしまったようで、なんとなく落ち着かない気持ちになった。時間は13時30分。下山開始予定時刻は14時なので、あまりゆっくりしている暇はない。


山頂から成就コース
弥山の右下には、今朝登ってきた成就コースがくっきりと見えていた。白い鞍部に広がる夜明峠の向こうには、対照的なまでに黒い森に囲まれた成就社も見えている。いまからあそこまで下って、さらにロープウェイ駅まで行くのかと思うと、げんなりした気持ちがじわりと湧き上がってきた。


天狗岳山頂で数枚の写真を撮り、わずか3分ほど滞在しただけで、せかされるように来た道を引き返した。なにもそれほどあわてることはないのだから、せめて腰をおろして、ゆっくりとチョコレートのひとつも食べればよかったのだが、なぜかそんなことをする気になれなかった。


弥山に戻るのに要した時間は、わずか10分程度だった。最後の鎖場を登りきると、天狗岳から見たときには誰もいなかった山頂に、単独行の男性登山者が一人いた。ちょうど登ってきたばかりのようで、休憩場所を探してうろうろしているような雰囲気だった。自分が最後の下山者でなかったという安心感で、すこしほっとした。


西の冠岳下のパーティー
山頂広場をそのまま横切って、石段の手前まで来たときに、正面に見える西ノ冠岳のピーク下の斜面に、芋虫が這っているような、細長いラインが見えた。何だろうと目を凝らしてみると、5人ほどのパーティーが、雪の斜面をトラバースしながら鞍部へと向かっているところだった。二の森からの夏道を縦走して来たのだろう。しかし、午後2時前の時間にあんなところをラッセルしているということは、山頂までまだ30分以上かかるだろう。それから休憩して下山していると、最終のロープウェイに間に合うのだろうか。それともどこかでテントを張るつもりなのか。それよりも、雪崩の心配はないのだろうか、などといらぬ心配をしながら彼らを少しの間見ていたが、いつまでも老婆心で見守っていても仕方がないので、彼らの無事を祈りつつ下山することにした。


下山時の階段
下山時は奈落のそこを見ながら雪に埋もれた階段を下るので、上りのときよりもスリル満点だ。


デポしていた荷物
14:01 無事にデポしておいた荷物のところまで戻ることができた。出発したときはまだ日が当たっていたのに、すっかり青い日陰の世界になっていた。


下山開始
ジャケットを脱いでバックパックに丸めて突っ込み、急いで準備を整えると、石鎚山の影に覆われ始めた道を下り始めた。


夜明峠の霧氷1
夜明峠では、やっぱり美しい霧氷が咲いた木に見とれてしまい、再び撮影に時間を費やすことになった。


夜明峠の霧氷2
自然の風景は、時間とともに光の向きと角度が変化するため、同じ場所でも見る時間が変わると美しくも地味にもなる。


夜明峠の霧氷3
また、行きと帰りで視線が異なるので、行きに気がつかずに帰りに気がつくということもある


夜明峠の霧氷4
ロープウェイの時間を気にしなくてよかったとしたら、おそらく1時間でも2時間でも撮影し続けていたことだろう。


下山時の前社ヶ森
14:56 途中何度も撮影に足を止めながら、前社ヶ森まで降りてきた。このあたりの霧氷も、いまだ解けずに残っていた。


下山時の八丁
15:23 急傾斜の道を下り、いい加減足が疲れてきたころ、八丁に着いた。ここから成就社まで登り返しになる。さすがに、そのまま登り斜面に向かう気にはならず、丸太のベンチを見つけて腰を下ろした。まだ飲みきっていないポットのお湯を飲み、登りで消費するカロリーを考えて甘いものをとった。こういうときはすぐにエネルギーになるチョコレートがいい。食べ終わるころに、途中で抜いてきた登山者が追いつき、彼も同様に休憩し始めた。
”シュボッ”
嫌な音が聞こえた。チラッと横を見ると、彼の口にはあのいまいましく不愉快な白く細長いものがくわえられていた。


僕はタバコの煙の臭いが、大嫌いなのだ。いや、単に嫌いというだけでなく、体調を壊してしまうという意味で、僕にとっての劇薬である。少しの煙でも継続的に吸ってしまうと、気分が悪くなり、頭痛が起こる。ひどくなると、息苦しさに襲われ数日間それが消えないこともある。多くの愛煙家は、そういう人間がいるということを考えたことすらないだろう。屋外だからとか、禁煙になっていないからという理由で喫煙を正当化して、どこでも平気で煙害を撒き散らす。喫煙は個人の自由だから、それをとやかく言うつもりはない。しかし、受動喫煙の問題が明確になっている昨今、屋外であっても駅周辺部などでは禁煙になりつつあるというのに、きれいでおいしい山の空気を、タバコの煙で汚染するとはなんたる愚行だろうか。しかも、あろうことかこの広い山域でわざわざ僕の隣にやってきて火をつけるのだから、もはや言語道断といわざるを得ない。少なくとも、そばに他人がいるのであれば、吸ってもいいかと尋ねるぐらいの配慮があってもいいのではないか。無神経な喫煙者のおかげで、せっかくの爽快な気持ちが台無しにされたと感じる自分のような登山者は、決して珍しい存在ではないはずだ。
”遠慮してもらえませんか”
僕は、喉まで出かかった言葉を飲み込みながら、息を止めたまま荷物を背負い、逃げるようにその場から立ち去った。この汚染された空気の中に、たとえ1秒でも居たくなかったのだ。


雪ダルマ
不愉快な気分でむしゃくしゃしながら成就社への道を登っていくと、かわいらしい雪だるまが出迎えてくれた。彼らは身長が1mはあろうかという大きな雪だるまで、登山道の脇で帰ってくる登山者を迎えてくれていた。その表情を見ているうちに、あの不快な臭いの記憶はいつしか消えて、とげとげしていた気持ちは丸くなった。


神門
16:02 神門が見えた。これで登り道は終わった。ここから先はきれいに整備された道を、ゆっくりと下っていけばいい。


ロープウェイ山上駅
16:21 ロープウェイ駅に到着した。雲ひとつない青空の下、夢のような霧氷の森を抜け、白い衣を身にまとった石鎚山を満喫した山旅はここで終わりだ。あとは鉄の箱に運ばれて、ただ移動するだけの空虚な数分間を経て、山麓へと戻るだけだ。


瓶ヶ森
駅舎の前からは、白く輝く瓶ヶ森が青空を切り取りながら悠然とたたずんでいるのが見えた。



おわり。


■山行データ
<往路所要時間> 4時間23分(撮影・休憩時間を含む)
ロープウェイ山頂成就駅8:51→成就社9:16→前社ヶ森10:35→夜明峠11:22→二の鎖下(土小屋ルート分岐)12:08→弥山山頂13:05→天狗岳山頂13:28

<復路所要時間> 2時間16分(撮影・休憩時間を含む)
天狗岳山頂13:37→二の鎖下14:01→前社ヶ森14:56→八丁15:23→成就社16:02→ロープウェイ山頂成就駅16:21

<登山道情報>
登山道はよく踏まれていて、大きく足がもぐることはなかった。スノーシューは必要なし。二の鎖下までならクランポンなしでもいけると思うが、山頂まで行くのであれば、6本爪以上のクランポンは必要。

三の鎖下の登山道脇にトイレがあり、使用できそうな雰囲気だったが、実際に使っていないので確認はしていない。それ以外道中にトイレはなかったので、冬季はくれぐれもロープウェイ山頂駅で用を済ませておくこと。





<あとがき>
小説風などとお馬鹿なことを思いついてしまったために、なんだか筆が進まず大変なことになってしまいました。起承転結のない山行記録を小説風に書いてみたところで、登って降りるだけで盛り上がる場面もないし、受けない宴会芸みたいなものでした。なお、基本的に山行記録なので創作した部分はありませんが、心理描写のところはそれなりに膨らませていたりします。





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| 2012年2月 石鎚山 | 16:35 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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四国遠征第二弾 白銀の雪稜:石鎚山 その2

2012年2月12日 石鎚山(標高1982m) 日帰り山行 


霧氷の花を枝いっぱいにつけた大木の姿にしばらく見とれていたあと、ふと我に返ったように荷物を背負い、僕は先をめざして歩き始めた。


歯ブラシのような霧氷
この森は、同程度の標高の他の山よりも低木が多いような気がする。そのため、登山道の両脇から霧氷が張り付いた木の枝が覆いかぶさるように伸びていて、歯ブラシのような霧氷の様子をたやすく観察することができた。


冬芽
春を待つ冬芽も、凍てつく寒さの中でじっと暖かくなる日を待ち望んでいるようだ。


迷路の森
やがて登山道の勾配が急激に増し、呼吸が乱れ始めた。両脇に密生する木々が白い枝で視界をふさぐので、巨大な迷路を歩いているかのような気にすらなってくる。


前社ヶ森
10:35 小山のような岩塊の下を巻いて、急傾斜を登り返しながら上を見上げると、ふたたび真っ白い雪華を全身にまとった大木が目に飛び込んできた。大木の足元には寝そべるように粗末な小屋があるが、深い青色に塗られた小屋の外壁と、背後に広がる空の色が不思議な調和を見せていた。


試しの鎖の岩
山小屋かと思ったその小屋は、前社ヶ森という場所に建つ茶屋らしいが、冬季は無人の小屋になっていた。小屋のすぐ脇には、ついいましがたその足元を巻いてきた巨大な岩塊がそびえていた。この岩塊が「試しの鎖」といわれる鎖場だそうだが、さすがに積雪期にわざわざ鎖を伝い岩塊を超えるルートを来るものはいないようだった。


前社ヶ森から見た瓶ヶ森
小屋の前に立つと、正面に瓶ヶ森の白い頂が見えた。山頂部が広大な笹原になっている瓶ヶ森は、麓の石鎚山ロープウェイ乗場からさらに林道を奥に入ったあたりからルートがあるようだが、ロープウェイが利用できないため、石鎚山よりもタフな登山になりそうだ。
”次はあそこだな”
そんなことを思いながら、瓶ヶ森の白い頂をしばらくの間眺めていた。


前社ヶ森から先の道
前社ヶ森で小休止をとったあと、再び迷路のような白い森の中に向かった。晴天の日差しを浴びても、霧氷は融け落ちることなく木の枝に張り付いていた。


瀬戸内海を見渡す
森を抜け、見晴らしのいい尾根上に出ると、穏やかな瀬戸内海の様子や、麓の街の家並みまできれいに見えていた。海の向こうに伯耆大山の頂が見えないかと探してみたが、水平線近くはすこし靄っていて、それらしい頂を見つけることはできなかった。


森の向こうの瓶ヶ森
登ってきた方角には、瓶ヶ森が相変わらず寄り添うようにたたずんでいた。


夜明峠
11:22 森を抜けると、突然目の前に石鎚山が大きく立ちはだかった。手前には、輝く霧氷を身にまとった木々が点在する鞍部が緩やかに広がっている。この登山道中、もっとも美しい場所とされる夜明峠(よあかしとうげ)に着いたのだ。正面にそびえる石鎚山の岩峰が迫力を持って天に突き上げている。日の光を浴びて穏やかな表情の弥山に対して、最高峰の天狗岳は抜けるような青空の中黒々と沈み込んでいた。沈思黙考しているかのようなその姿は、畏敬の念を抱かせる雰囲気があったが、同時に魅力的でもあった。


夜明峠案内板
標高でいうと、夜明峠がちょうど登山道の中間点に相当するということらしい。高木が少なく、疎林といってもいいような雰囲気の峠は、そのおかげで見晴らしがよく、陽光にあふれた明るい峠だった。


無名峰
石鎚山の北西にある1920.6mの無名峰の切り立った断崖が、荒々しく空を切り裂いていた。


記念撮影
夜明峠の青と白がせめぎあう世界で、わずかな時間を過ごした。記念写真をセルフタイマーで1枚撮り、荷物を降ろしてあたりの風景を撮影して歩いた。


夜明峠の木々
これほど美しい霧氷の森を見るのは初めてだった。すべての木々が信じられないほど白い氷で枝という枝をびっしりと飾りつけ、太陽の光できらきらと輝いている。

夜明峠から瓶ヶ森

モンスターの木
空の青を除いてはモノトーンの世界に近いのだけれど、ありたっけの色を並べたお花畑と比べても、この白い世界のほうが色彩にあふれていて美しいと感じるのではないかという気さえしてくるほどだった。


山頂への道
後ろ髪を引かれる思いで夜明峠を後にした僕は、はるか頭上にそびえる岩の峰を目指して、本格的な急登が続く道へと歩き出した。


夜明峠を振り返る
振り返ると、白く染まった夜明峠の向こうに、およそ冬とは思えないほど穏やかな瀬戸内海と西条の街並が見えていた。ほんのわずかな距離と標高の違いが、これほど異質な世界を隣り合わせに作り出すのだ。自然の不思議さとともに強引なまでの力強さを感じた瞬間だった。


二の鎖の鳥居
12:08 二の鎖の分岐に着いた。鳥居の上にいくつか古ぼけた小屋が建っていたはずだが、跡形もなく消えうせている。小屋で食事にさせてもらうつもりだったのに、当てが外れてしまった。


土小屋ルート分岐
ここは土小屋ルートとの合流点だ。2009年5月に土小屋ルートを経由してここに来たことが思い出される。さすがに石鎚スカイラインや瓶ヶ森林道が通行止めになる積雪期に土小屋ルートを登ってくる人はいないらしく、雪面にはトレースの痕跡すら見当たらなかった。


鳥居から一段上がった平坦な場所で荷物を降ろした。かつて小屋があったと思われる場所に、雪の中からわずかに頭を覗かせた石垣があったので、そこを椅子がわりにすることができた。少し強めに吹き始めた風から体を守るためにジャケットを着込んで、手早く食事をとった。食事をしながら周囲を見渡してみると、バックパックが2つ、近くにあるブルーシートで覆われた建築資材か何かの上に置いてあった。どうやら重い荷物をここにデポして山頂へ向かったらしい。
”その手があったか”
ここから山頂までは傾斜が急になる上に、雪の積もった鉄階段を歩かなければならない。重い荷物などないほうが身軽でいい。さいわい天気は崩れる予兆など微塵もない。


二の鎖迂回路入口
食事を終えると、座っていた石垣のそばに荷物をまとめてデポした。風で体感気温が低いため、ジャケットはフリースの上に着たままで行くことにした。アックスとカメラと行動食だけを身につけて、僕は山頂に向けて出発した。


鉄階段
勾配のきつい斜面を真横にトラバースするように少し歩くと、鉄製の階段が現れた。以前来たときは二の鎖を登ったので、この階段の道は初めて通ることになる。完全に雪に埋もれているのかと思っていたが、意外にもきれいに除雪されたようになっていたので、少し安心した。


天狗岳の岩峰
二の鎖をぐるっと遠回りして登りつめたところで、石鎚山の大岩壁を真正面に見ることができる場所に出た。中央の黒々としたドーム上の岩峰が天狗岳だろう。3つの岩峰が寄り添っている様は、伯耆大山のとなりにある烏ヶ山のようでもある。撮影ついでに少し休憩をとってから、再び上を目指した。


半分埋もれた階段
二の鎖の迂回路よりも三の鎖の迂回路のほうが傾斜も急になり、階段の半分は完全に雪に埋まっているところが多くなった。階段は中央部分にしか手すりがついていないので、崖側はまさにがけっぷちを歩いているような情況だ。高所恐怖症の人は、まず足がすくんで歩けないことだろう。かつての自分なら、そうとうビビッていたに違いないが、北アルプスの大キレットを歩いてからというもの、これぐらいの状態であればそれほど恐怖心を感じなくなった。高所恐怖症は、ある程度のショック療法で克服することはできるようだ。

雪に埋もれた階段
しかし、ついに階段全部が雪に埋もれている状況になった。わずかに雪の上に顔を出した手すりにつかまりながら、中腰のまま慎重に足を進めていかなければならない。重い荷物を背負っていたらかなりつらい姿勢だが、空身ゆえにそれもたいした苦痛ではなかった。


完全に埋もれた階段
進むにつれて状況はさらに悪化し、ついに階段は完全に雪に埋没してしまった。こうなるともはや階段ではなく、ただのトラバース道だ。アックスを雪面に突き刺し、クランポンの刃がしっかりと食いついている感触を足の裏で確認しながら、僕は歩き続けた。


絶壁を這う階段
山頂直下の階段は、ほぼ垂直に近いと思われるほどの急斜面に設置されていた。幸いにも手すりがわずかに見えていたので、手すりをつかみ安全を確保しながらその階段を渡り始めた。足の下にはめまいがしそうな高さの空間が、大きく広がっていた。恐ろしいほどの高度感をたっぷりと味わいながら階段を渡りきると、僕は大きくひとつ深呼吸をした。それは、安堵のため息でもあり、高ぶった気持ちを静めるためでもあった。


展望開ける
そして、ついに視界が大きく開けた。正面右手に西ノ冠岳、左手奥に二の森がくっきりと見えていた。頂上はもうすぐそこにある。


山頂への石段
頂上山荘下の石段を歩くと、クランポンの刃が悲鳴を上げたが、かまわず歩き続けた。石段の先にはもう斜面も階段もない。あるのは青い空だけだった。



つづく。


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| 2012年2月 石鎚山 | 20:15 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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四国遠征第二弾 白銀の雪稜:石鎚山 その1

いつもどおりのレポではちょっとマンネリなので、今回は小説風にしてみました(内心、よけいなことしちまったと思いつつ、最初から書き直すのも面倒だし、途中でやめるわけにもいかず・・・)。そのため、山行記録とは言いながら、多少の脚色と誇張表現が含まれますので、あらかじめご了承ください(^^ゞ 




2012年2月12日 石鎚山(標高1982m) 日帰り山行 



赤く染まる空をフロントガラス越しに見つめながら、僕は西に向かって車を走らせていた。ほんの数時間前、剣山で見た美しい雪山の風景の余韻が、まだ頭の中で渦巻いていた。これから向かう西日本の最高峰石鎚山で、再びあの風景に出会えるかもしれないと思うと、妙に心は騒いだ。すでに気持ちは石鎚山へと飛び、真っ白な霧氷の森の中をさまよっていた。


しかし、現実の肉体は国道192号線上をのんびりと動いている。祝日の土曜日ということもあって、夕方の国道は意外に混んでいた。片側一車線の道は、道路わきのお店やスーパーに入ろうとする車が右左折のために減速するたびに、ブレーキランプの連なる赤い川となって淀んだ。


石鎚山を訪れるのはこれで2度目になる。前回は2009年のゴールデンウィークだった。雨にたたられて、3泊4日の日程はずっと曇りか雨。最初の3日間は山頂部はガスの中だったので、麓の高瀑渓谷や面河渓を散策しながら写真を撮って過ごした。最終日にやっと雨がやみ、土小屋ルートで山頂まで上がることができた、スカッと晴れた爽快な天気ではなく、どこか不完全燃焼のまま終わった山旅だった。


石鎚山ロープウェー乗場の駐車場に着いたのは、午後9時30分頃だった。天気予報では、日曜日も晴れ。しかし、土曜日の好天で霧氷が融け落ちてしまっている可能性がある。剣山から下山するときは、実際にそういう状態だった。夜のうちに山頂部に雲がかかり、霧氷が発達してくれることを願いながら、10時前には寝袋にもぐりこんだ。


7:00 目が覚めると、空はきれいに晴れわたっていた。山頂部分がどうなっているのかは、上まで登ってみなければわからない。ロープウェイの始発は8:40だとネットに出ていたのでゆっくりと朝食をとり、その後ポットに入れるお湯を沸かしたり着替えたりしているうちに、時計は8時を回っていた。そのころになると駐車場にはぞくぞくと車が入ってくるようになった。そそくさと着替えて、スキー板やボードを担いだ人たちがロープウェイ乗場へと向かう。
”始発まで時間があるのに、ずいぶん早急なんだな”
そんな風に思いながら彼らをみていたが、もしかしたら混雑を嫌って順番とりに向かっているのかもしれない。そうであれば、のんびりと時間を待っている場合ではない。僕もあわてて準備を整え、車を後にした。


8:15 ロープウェイ乗場に着くと、8:20発の改札が始まっていた。行列を覚悟していたが、意外にも行列はまったくできていなかった。始発が早まったということかと思い、急いで切符を購入し、ぎりぎりで8:20発の便に乗ることができた。(後日確認したところ、積雪期のロープウェイ運行時間はスキー場の営業時間にあわせるらしく、土日祝日は8時が始発だった。)


山頂成就社駅
わずか10分にも満たない時間で、一気に1300m近い標高の山頂成就駅に到着した。乗客の多くは急ぎ足で駅舎の外へと出て行ったが、僕を含めて数名のものが駅舎内にとどまった。みな登山者だった。クランポンを装着したり、ジャケットを羽織ったりと、それぞれが黙々と厳しい雪山に挑むための儀式を行っているかのようだった。そして、儀式を終えた者から順番に、まぶしい光と引き締まるような冷気の充満した外界へと出発して行った。


8:51 ハードシェルをバックパックにしまいこみ、クランポンを装着し終えて、僕の儀式は終わった。薄っぺらなガラスの引き戸を開き、冷たく濃密な空気の中へと足を踏み出した。紛れもない氷点下の空気が全身を包み、生暖かい室内の気温に慣れきっていた全身の筋肉が一瞬のうちに緊張した。


案内板
目の前には、環境へ溶け込むことを真っ向から拒否するかのような案内板が、巨大なBBQのごとくその存在を主張している。
”スキー場だからな”
半ばあきらめにも似た思いでそれを見つめ、最上段に書かれた「石鎚山頂」の文字だけを確認すると、僕は大きく息を吸って踏み固められて薄汚れた雪に一歩を踏み出した。クランポンの刃が、“ザクッ”と小さな音を立てた。


坂道の上の青空
坂道の先には真っ青な空が広がっている。
”今日も一日晴れてくれよ”
そう願いながら、ゆっくりと坂道を登った。


圧雪された道
成就社までの道は、きれいに圧雪され歩きやすい道だ。勾配もそれほどきつくない。クランポンなどなくてもまったく問題ないほど、雪は乾燥して軽かった。


成就社下の霧氷
やがて、道の両側の森は白い霧氷の花を咲かせるようになった。標高はまだ1400mほどだが、ここでこれほど見事な霧氷の花が見られるのなら、上に行けばさらにすばらしい光景に出会えるはずだ。気持ちは高ぶり、足取りは軽かった。


成就社
9:16 石鎚神社成就社に着いた。朝早いためか、鳥居の周辺にあるみやげ物屋はひっそりと静まり返っていた。神社にお参することも考えたが、早く霧氷の森が見たいという気持ちが勝り、鳥居をくぐるとすぐに左折して登山口に向かった。


神門
登山口には、注連縄が飾られた神門が建っていた。ここから先は神域ということなのだろう。石鎚山は、山そのものが神でもある。登山者は神の懐に入っていくというわけだ。神聖な気持ちと、それなりの覚悟を持って入山しろという戒めの意味がこの門にはこめられているのだろう。


ブナの大木
神門をくぐった先は、拍子抜けするぐらい穏やかで緩やかな下りの道が続いていた。ときどき巨大なブナが道端で登山者を見つめている。


緩やかな下り道
ゆったりとした幅広の道を、緩やかに下る。成就社の下で見たような霧氷は、影も形もない。日当たりがよすぎてすっかり融け落ちてしまっているとしたら、この先もあまり期待できないのかもしれない。すばらしい霧氷の森に出会えるという期待で膨らんでいた気持ちが、ほんの少ししぼみ始めたような気がした。


白い石鎚山
しかし、それは杞憂に終わった。先に進み、やがて木々の梢の先に見えた石鎚山は、見事なほど真っ白な雪化粧を施した森に覆われていた。しぼみ始めていた気持ちは、前にもまして大きく大きく膨らんだ。


八丁
9:35 成就社から石鎚山頂への登山道中、最低鞍部の八丁へ降りてきた。下りはここまで。いままではウォーミングアップのようなもので、ここからが本番だ。


八丁からの登り
八丁のすぐ先から始まる斜面は、それなりの傾斜がある。しかし、これから始まる山頂までの長く困難な道のりを予感させるほどの迫力はない。むしろ、これぐらいなら楽な道のりだと思わせるぐらいの優しさがある。


輝く石鎚山
八丁から始まる坂道を10分も登ると、平坦な尾根の道になった。葉を落とした木々の向こうに、澄み渡る青空とまぶしく輝く石鎚山の姿が見えていた。


霧氷の森再び
標高1400mに近づいてくると、周囲の木々は再び霧氷で白く彩られはじめた。地面だけが真っ白だった登山道は、右も左も白い世界に変わってゆく。


頭上にも霧氷
歩くにつれ、頭上も白く覆い隠されてゆく。白い天蓋の隙間にちりばめられたサファイアブルーの空の破片が、どこか異国の空を思い起こさせる。剣山でみた光景をはるかにしのぐ美しさだ。


(写真クリックで拡大)
白い森
やがて周囲はほとんど白一色の世界になった。その白い世界の向こうに、見慣れた太陽とはどこか違う、何者にも染まっていない純潔で無垢な輝きがあった。周囲は不思議な光に満ちていた。暖かさもまぶしさもない白く透明な光は、まるで無機質な液体のように森の中に溢れていた。やがて僕の体は僕自身の存在を否定するかのようにその色を失い、真っ白に昇華していくような感覚に襲われた。誰かの歓声に引き戻されなければ、そのままこの白い世界に溶け込んで戻ってこれなかったのではないか。ふとそんな気がした。しかし、それは恐怖ではなく、むしろ憧れにも似た感情だった。


登山者の歓声
白い森の中を、ゆっくりと登っていくと、先行していた登山者が頭上に向けてカメラを構え、首が痛いといいながらもなおシャッターを押し続けていた。
”何があるのだろう”
すばらしい光景に出会える予感に胸を躍らせながら、その場所に登りつめて頭上を見上げた。


美しい霧氷
そこにあったのは、枝先の隅々まで真っ白に輝く氷の花をちりばめた大木だった。爽やかで清々しいまでの透明感をもった青空を背景に、霧氷の花を咲かせた大木の姿はこの世のものとは思えなかった。僕は雪の上に寝転がって、ただ無心にそれを眺め続けた。現実とは思えない美しさに、視線をそらすことができなかったというほうがいいのかもしれない。



つづく






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| 2012年2月 石鎚山 | 23:04 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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