強風のナイフリッジ:烏ヶ山(からすがせん)
2011年4月5日 鳥取県江府町 烏ヶ山(標高1448m)日帰り山行
前日の大山登山の疲れが残り、足も筋肉痛で力が入らない状態で見ていた天気予報。4月だというのに、かなり冷え込むとのこと。”そうか、お山は寒いだろうな” ”雪も締まって歩きやすそうだ” ”霧氷なんかできちゃうかも” ”そういえば大山から見た烏ヶ山には霧氷がついていたっけ” ”烏ヶ山は一度登ってみたい山だし”・・・・「そうだ! 烏ヶ山に行こう!!」
というわけで、疲れも筋肉痛も残ったまま、大山登山の2日後に烏ヶ山の麓に立っていたのでした。

霧氷が見たいということもあり、到着したのは早朝午前6時5分。最短距離で登れる鏡ヶ成キャンプ場前の登山口から登るつもりでしたが、道路脇には雪の壁が残っていて駐車スペースがなく、少し下ったところにあった駐車スペースから直接登ることにしました。踏み跡もついていたので、同じようにここに車を停めて登った人もいたようです。雪質を確かめると、けっこうしまっていてスノーシューよりもクランポンのほうがよさそうです。

クランポンを装着して6時8分に出発すると、ちょうど朝日が烏ヶ山の山頂部を赤く染めはじめました。

平坦な森の中を歩いていると、木々の隙間から朝日が差し込み始めました。考えてみると、冬木立の中で朝日を見るのは初めてのことです。木々の陰と雪面を赤く染める朝日のコントラストがなかなかいい感じです。それにしても、視界のよくない平坦な森の中は、ともすれば方向感覚を失います。わずかな傾斜と時折見える烏ヶ山の山頂で進行方向を見定めながら進んでいきますが、いったいどの辺りにいるのかまったく見当がつきません。そもそも出発地点が本来の登山口よりもだいぶ南にずれているので、取り付く尾根も違います。とりあえず上へ上へと登っていけば、いずれ登山道のある尾根に合流することだけは明らかなので、尾根が出てくるまではスキーのトレースをたどって進みました。

やがて尾根が見えてくると、登山道のある北西へ向かう尾根をたどって登っていきました。次第に斜度がきつくなり、風も出てきました。雪面には、のこぎりの歯のような不思議な溝がたくさんできています。エビの尻尾のようでもあり、小型の雪庇のようでもあり、成因がはっきりしませんが、おそらく風のいたずらでしょう。

やがて標高も高くなり、尾根の幅も狭くなってきました。烏ヶ山の頂上もかなり近くみえるようになっています。期待していた霧氷は影も形もありません。風が強く、耳が痛くなってきました。

午前7時、標高1195m地点まで来ると、急傾斜のため直登するのが厳しくなってきたので、トラバースして広い尾根に出ました。頭上には真っ青な空が広がり、開放感は抜群です。しかし、風がますます強くなってきました。もはや、フードなしでは耳が凍傷になりそうなほどです。ハードシェルのフードをしっかりかぶって、尾根の広さを利用してジグザグに登りながら上を目指します。

やがてブナ林がまばらになり、広くて急な斜面に出ました。登ってきた尾根はこの斜面の左手になるのですが、少し上の雪面に亀裂が入っているが見えました。まだ気温が低いので雪崩の心配はなさそうですが、あまり気分がよくないので斜面をトラバースして反対側の尾根に移動しました。右手の尾根に取り付いてみると、スキーの跡や踏み跡がありました。地図とGPSで位置を確認してみると、どうやら夏道が通っている尾根に合流したようです。

トレースのある尾根を登りきると、山頂に直接つながる尾根に出ました。少し先にこぶのようなものすごい急傾斜の壁があり、そのはるか上に南峰の山頂が見えています。

振り返ると、広大なブナ林の向こうに鏡ヶ成スキー場と擬宝珠山・象山、さらに蒜山へと続く山並みがきれいに見えていました。

狭い尾根をつめて壁の前まできました。斜度はありますが左右は切り立った崖ではないし、木があるのでそれほど恐怖感は感じません。ただ、スリップして下に落ちることだけに注意すれば大丈夫そうです。壁の手前にある低木の脇にちょっとしたスペースがあったので、ストックとスノーシューをデポして少しでも軽量化を図ります。そして、アックスを右手に壁に挑戦です。

横を見ると、壁の斜度がよくわかります。これは取り付き部での写真なので、実際の壁の斜度はもう少し急でした。途中、ロープが設置してある部分もありましたが、アックスを併用しながらなんとか壁を登りきりました。

壁の上に出ると傾斜は少し緩やかになり、雪もしっかりついています。このまま山頂へ続いているのかと思いきや・・・

ゲゲゲッ\(◎o◎)/! 恐ろしげなナイフリッジの出現です。左手はすっぱりと切れ落ちた崖のようですが、とても確かめに行く気にはなれません。風はますます強く、休むことなくうなりをあげています。立って歩けないというほどではないにしても、ときどきバランスを崩すほどの強さで吹き付けてきます。

ナイフリッジの上のほうを観察してみると、低木の根が盛り上がった上に雪が載っているところもあります。幅はせいぜい60cmという雰囲気です。踏み抜くことなく歩けるのでしょうか。

ナイフリッジを登りきった先は、どうやらあの岩壁をよじ登らなければいけないようです。

右手ははるか下まで続く谷。滑落してもなんとか命だけは助かりそうな雰囲気ですが、立ち木に激突したらどうなるかわかりません。それでも左側の崖に転落するよりはましですが。強風の中、少しだけナイフリッジに踏み出してみましたが、北風に押されて南側、すなわち崖側にふらつきます。”やーめた”。即刻撤退決定です。GPSの標高は1399mを示していました。目の前にある南峰の標高が1430mほどなのであと少しのところでしたが、状況と自分の技量をかんがみるとここで撤退が正解でしょう。右手に見える尾根を通る新小屋峠からの登山道のほうが登りやすかったかもしれません。
撤退を決めたものの、時間はまだ午前8時15分。こんなに早く下山するのはあまりにももったいないという気持ちもふつふつ。そうはいっても、強風吹きすさぶ尾根上でお茶をする気にもなれないし、時間がたてば雪も緩んできます。ひとしきり景色を楽しんだ後、下りはじめました。

急斜面の壁の上まで戻ってくると、斜面が急すぎて下が見えません。これはこれでかなり恐ろしい状況です。前を向いて降りられるはずもなく、後ろ向きで足元を確かめながら一歩ずつ下りました。

デポしておいたストックとスノーシューを回収して、いざ下山です。時々踏み抜くようになってきた尾根を慎重に下ります。亀裂を見つけて登るのを避けた尾根を駆け下りるようにして通過し、あっというまに平坦な森まで降りてきました。

ところが、朝自分が歩いた足跡が残っていません。雪が固かったうえにクランポンをつけていたので、靴底の跡が残っていないのです。わずかに残っていたであろうクランポンの爪の跡などは緩んだ雪とともに消えていました。唯一、たどってきたスキーのトレースがわずかに見え隠れしていたので、見失わないようにそのトレースを再びたどります。しかし、次第に判然としなくなりました。地図と磁石・GPSもあるので迷って遭難するということはないにしても、やはりまっすぐ車へ戻りたいところです。困ったなと思って雪面をよく見ると、ストックで突き刺した穴が一定の間隔で続いているのが見つかりました。天の助けとばかり、小さな穴を探しながら森の中を歩きます。

9時41分、どこに道路があるのかすらわからないような雪原を歩き続けてやっと、やっと車が見えたときには正直ほっとしました。ピストン山行の場合、せっかくGPSロガーを持っていても登りにウェイポイントを登録しておかなければ、下山時に活用できないというのが今回の反省点です。やはり、出発点と途中何点かでウェイポイントを登録しておかないと、宝の持ち腐れです。ガスでなくても目印のない森の中では迷いやすいと実感しました。

雲ひとつない青空に、烏ヶ山のピークがくっきりと見えていました。自分が撤退した場所もよく見えます。I will be back! (^o^)丿

■山行データ
途中撤退につきデータなし。
<登山道情報>
夏道をたどっていないのでなんともいえませんが、烏ヶ山の麓に広がる森の中は目印になるものがなく迷いやすいと感じます。往復とも同じルートを歩く場合は、GPSを持っているのであればウェイポイントを登録しながら歩いたほうが安心です。GPSを持たないのであれば、テープなど目印になるものを用意しておいたほうがいいでしょう。ただし、帰り道で回収するのを忘れないように。
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前日の大山登山の疲れが残り、足も筋肉痛で力が入らない状態で見ていた天気予報。4月だというのに、かなり冷え込むとのこと。”そうか、お山は寒いだろうな” ”雪も締まって歩きやすそうだ” ”霧氷なんかできちゃうかも” ”そういえば大山から見た烏ヶ山には霧氷がついていたっけ” ”烏ヶ山は一度登ってみたい山だし”・・・・「そうだ! 烏ヶ山に行こう!!」
というわけで、疲れも筋肉痛も残ったまま、大山登山の2日後に烏ヶ山の麓に立っていたのでした。

霧氷が見たいということもあり、到着したのは早朝午前6時5分。最短距離で登れる鏡ヶ成キャンプ場前の登山口から登るつもりでしたが、道路脇には雪の壁が残っていて駐車スペースがなく、少し下ったところにあった駐車スペースから直接登ることにしました。踏み跡もついていたので、同じようにここに車を停めて登った人もいたようです。雪質を確かめると、けっこうしまっていてスノーシューよりもクランポンのほうがよさそうです。

クランポンを装着して6時8分に出発すると、ちょうど朝日が烏ヶ山の山頂部を赤く染めはじめました。

平坦な森の中を歩いていると、木々の隙間から朝日が差し込み始めました。考えてみると、冬木立の中で朝日を見るのは初めてのことです。木々の陰と雪面を赤く染める朝日のコントラストがなかなかいい感じです。それにしても、視界のよくない平坦な森の中は、ともすれば方向感覚を失います。わずかな傾斜と時折見える烏ヶ山の山頂で進行方向を見定めながら進んでいきますが、いったいどの辺りにいるのかまったく見当がつきません。そもそも出発地点が本来の登山口よりもだいぶ南にずれているので、取り付く尾根も違います。とりあえず上へ上へと登っていけば、いずれ登山道のある尾根に合流することだけは明らかなので、尾根が出てくるまではスキーのトレースをたどって進みました。

やがて尾根が見えてくると、登山道のある北西へ向かう尾根をたどって登っていきました。次第に斜度がきつくなり、風も出てきました。雪面には、のこぎりの歯のような不思議な溝がたくさんできています。エビの尻尾のようでもあり、小型の雪庇のようでもあり、成因がはっきりしませんが、おそらく風のいたずらでしょう。

やがて標高も高くなり、尾根の幅も狭くなってきました。烏ヶ山の頂上もかなり近くみえるようになっています。期待していた霧氷は影も形もありません。風が強く、耳が痛くなってきました。

午前7時、標高1195m地点まで来ると、急傾斜のため直登するのが厳しくなってきたので、トラバースして広い尾根に出ました。頭上には真っ青な空が広がり、開放感は抜群です。しかし、風がますます強くなってきました。もはや、フードなしでは耳が凍傷になりそうなほどです。ハードシェルのフードをしっかりかぶって、尾根の広さを利用してジグザグに登りながら上を目指します。

やがてブナ林がまばらになり、広くて急な斜面に出ました。登ってきた尾根はこの斜面の左手になるのですが、少し上の雪面に亀裂が入っているが見えました。まだ気温が低いので雪崩の心配はなさそうですが、あまり気分がよくないので斜面をトラバースして反対側の尾根に移動しました。右手の尾根に取り付いてみると、スキーの跡や踏み跡がありました。地図とGPSで位置を確認してみると、どうやら夏道が通っている尾根に合流したようです。

トレースのある尾根を登りきると、山頂に直接つながる尾根に出ました。少し先にこぶのようなものすごい急傾斜の壁があり、そのはるか上に南峰の山頂が見えています。

振り返ると、広大なブナ林の向こうに鏡ヶ成スキー場と擬宝珠山・象山、さらに蒜山へと続く山並みがきれいに見えていました。

狭い尾根をつめて壁の前まできました。斜度はありますが左右は切り立った崖ではないし、木があるのでそれほど恐怖感は感じません。ただ、スリップして下に落ちることだけに注意すれば大丈夫そうです。壁の手前にある低木の脇にちょっとしたスペースがあったので、ストックとスノーシューをデポして少しでも軽量化を図ります。そして、アックスを右手に壁に挑戦です。

横を見ると、壁の斜度がよくわかります。これは取り付き部での写真なので、実際の壁の斜度はもう少し急でした。途中、ロープが設置してある部分もありましたが、アックスを併用しながらなんとか壁を登りきりました。

壁の上に出ると傾斜は少し緩やかになり、雪もしっかりついています。このまま山頂へ続いているのかと思いきや・・・

ゲゲゲッ\(◎o◎)/! 恐ろしげなナイフリッジの出現です。左手はすっぱりと切れ落ちた崖のようですが、とても確かめに行く気にはなれません。風はますます強く、休むことなくうなりをあげています。立って歩けないというほどではないにしても、ときどきバランスを崩すほどの強さで吹き付けてきます。

ナイフリッジの上のほうを観察してみると、低木の根が盛り上がった上に雪が載っているところもあります。幅はせいぜい60cmという雰囲気です。踏み抜くことなく歩けるのでしょうか。

ナイフリッジを登りきった先は、どうやらあの岩壁をよじ登らなければいけないようです。

右手ははるか下まで続く谷。滑落してもなんとか命だけは助かりそうな雰囲気ですが、立ち木に激突したらどうなるかわかりません。それでも左側の崖に転落するよりはましですが。強風の中、少しだけナイフリッジに踏み出してみましたが、北風に押されて南側、すなわち崖側にふらつきます。”やーめた”。即刻撤退決定です。GPSの標高は1399mを示していました。目の前にある南峰の標高が1430mほどなのであと少しのところでしたが、状況と自分の技量をかんがみるとここで撤退が正解でしょう。右手に見える尾根を通る新小屋峠からの登山道のほうが登りやすかったかもしれません。
撤退を決めたものの、時間はまだ午前8時15分。こんなに早く下山するのはあまりにももったいないという気持ちもふつふつ。そうはいっても、強風吹きすさぶ尾根上でお茶をする気にもなれないし、時間がたてば雪も緩んできます。ひとしきり景色を楽しんだ後、下りはじめました。

急斜面の壁の上まで戻ってくると、斜面が急すぎて下が見えません。これはこれでかなり恐ろしい状況です。前を向いて降りられるはずもなく、後ろ向きで足元を確かめながら一歩ずつ下りました。

デポしておいたストックとスノーシューを回収して、いざ下山です。時々踏み抜くようになってきた尾根を慎重に下ります。亀裂を見つけて登るのを避けた尾根を駆け下りるようにして通過し、あっというまに平坦な森まで降りてきました。

ところが、朝自分が歩いた足跡が残っていません。雪が固かったうえにクランポンをつけていたので、靴底の跡が残っていないのです。わずかに残っていたであろうクランポンの爪の跡などは緩んだ雪とともに消えていました。唯一、たどってきたスキーのトレースがわずかに見え隠れしていたので、見失わないようにそのトレースを再びたどります。しかし、次第に判然としなくなりました。地図と磁石・GPSもあるので迷って遭難するということはないにしても、やはりまっすぐ車へ戻りたいところです。困ったなと思って雪面をよく見ると、ストックで突き刺した穴が一定の間隔で続いているのが見つかりました。天の助けとばかり、小さな穴を探しながら森の中を歩きます。

9時41分、どこに道路があるのかすらわからないような雪原を歩き続けてやっと、やっと車が見えたときには正直ほっとしました。ピストン山行の場合、せっかくGPSロガーを持っていても登りにウェイポイントを登録しておかなければ、下山時に活用できないというのが今回の反省点です。やはり、出発点と途中何点かでウェイポイントを登録しておかないと、宝の持ち腐れです。ガスでなくても目印のない森の中では迷いやすいと実感しました。

雲ひとつない青空に、烏ヶ山のピークがくっきりと見えていました。自分が撤退した場所もよく見えます。I will be back! (^o^)丿

■山行データ
途中撤退につきデータなし。
<登山道情報>
夏道をたどっていないのでなんともいえませんが、烏ヶ山の麓に広がる森の中は目印になるものがなく迷いやすいと感じます。往復とも同じルートを歩く場合は、GPSを持っているのであればウェイポイントを登録しながら歩いたほうが安心です。GPSを持たないのであれば、テープなど目印になるものを用意しておいたほうがいいでしょう。ただし、帰り道で回収するのを忘れないように。
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| 2011年4月 烏ヶ山 | 21:19 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑